アプリ「マウスカーソルげんそくん」をMicrosoft Storeで公開してみた
みなさん、AIコーディングを駆使してアプリやサービスを開発していますか? きっと自分用ツールをガンガン作って日々の作業を楽にしたり、生活を便利にしていることでしょう。
しかし、作ったアプリをいざ他の人に使ってもらうとなると、また別のハードルが立ちはだかります。「どこで公開して、どうやってダウンロードしてもらうか」が意外に難題なのです。
「パソコン用アプリならWebサイトにアップロードすればいいのでは?」と思うかもしれませんが、実はそう単純な話ではありません。
今回、筆者はWindows用の小さなアプリを作り、それを「Microsoft Store」で公開してみました。なぜストアで配信することにしたのか、そのためにどんな準備や作業が必要だったのか、紹介したいと思います。「いつか自作アプリを公開したいかも」と考えている人の参考になれば幸いです。
簡単ではない現代のアプリ配信
アプリといってもスマホ用やパソコン用、Webブラウザー上で動作するWebアプリと、いろいろな種類があります。
ネットで「一般公開」するにはそれぞれにハードルとなるポイントはありますが、スマホ・パソコン用アプリはWebアプリには通常ない面倒なことがあります。OS開発元が運営する「ストア」で配信するのが基本で、そのために「審査」を通過しなければならないこと、場合によっては「署名(証明書の取得)」や「登録料」が必要になる、ということです。
Windows用アプリを配信している「Microsoft Store」
パソコン用アプリについて言うと、かつては「ZIPで固めて自分のホームページにアップロード」すればOKでした。が、セキュリティ意識が高まっている昨今、そんな緩い作法は通用しなくなっています。
Windowsでは、Webなど公式ストア以外からダウンロードしたアプリだと、インストールしたり実行したりする時に警告表示(SmartScreen)が出ることがあります。これは「署名(証明書)」がないのが原因です。署名がない=どこの誰とも分からない人が作った勝手アプリなんだから、このまま実行したら危ないかもよ、とOSが警告してくれるわけです。
ユーザー側では、権限によっては警告を無視して強制的にインストールすることもできますが、完全に自己責任です。開発側に意図があるかないかに関わらず、パソコン内のデータが削除されてしまうかもしれませんし、アプリにウイルスが感染していて、実行した瞬間にパソコンが壊れたり、データ漏洩したりする可能性もあります。
なので、一般ユーザーが安心してアプリを使えるように、危険性を排除した信頼のおける仕組みが必要です。その1手段として用意されているのが各OSのストアであり、Windowsではマイクロソフトの提供する「Microsoft Store」になります。
もちろんMicrosoft Storeを通じてアプリ配布しなくても、警告が出ないようにする方法はあります。アプリに第三者の発行する「証明書」を付与して、「どこの誰が作ったアプリであるかを保証してもらう」というものです。
ただし、そのためには最低でも年間約7万円(2026年9月時点)というコストがかかります。これは個人開発者や小規模組織にとってはかなり厳しい金額です。それ以上の利益が望める有料アプリならともかく、無料アプリだと「そこまでして公開するほどでもない」と諦めてしまうのではないでしょうか(厳密には他にも低コストで警告を出さないようにする手段はありますが、あまり一般的ではないためここでは省きます)。
自分のWebサイトで配信する場合、インストール時に警告が出ないようにするには、通常、年間約7万円~の「コードサイニング証明書」が必要
一方、Microsoft Storeを配布元に選ぶとそのようなコストの問題が自然に解決するという利点があります。現状、プラットフォーム利用料金が一切かからないうえに、アプリに対する証明書も自動で付与され、インストール時に警告が表示される問題を回避できるからです。
また、アプリ更新に関わる作業負担が開発者側、ユーザー側ともに軽減できます。Microsoft Storeで配信すると、開発者側でアプリにアップデート機能を独自実装しなくても、それに近い半自動的なアップデートが可能になるのです。
Microsoft Storeの「ダウンロード」タブからアプリを簡単に更新できるようになるのもメリット
最近はアプリに更新があった際にアプリ内で通知され、その指示にしたがって操作するとアプリが最新バージョンに入れ替わるライブアップデート機能をもつものが増えていますが、それに近い使い勝手を手間なく追加できる、というのもストア配信のメリットと言えます。
どんなアプリを配信することにしたのか
そのように何かと面倒が少なく、直接コストもかからないことからMicrosoft Storeでアプリ配信することを決めた筆者ですが、ここでどんなアプリを公開するのか軽く紹介しておきたいと思います。
名前は「マウスカーソルげんそくん」。アプリを常駐させ、有効化した状態でキーボードの所定のキーを押すと、マウスカーソルの移動速度を遅くする(または速くする)ことができる、というのがメイン機能のマウスユーティリティとなっています。
「マウスカーソルげんそくん」の設定画面
カーソル付近を大きく拡大したり、ウィンドウのリサイズ枠付近で自動で速度を遅くしたり、ホイール操作をカスタマイズしたり、といった機能もありますが、要するにマウスで細かい位置調整やらなんやらをしやすくするのが目的です。
実はこのツール、もともとは今から20年以上前の2004年頃、筆者がC/C++言語で手コーディングし、自分のホームページで配布していたツールです。それをベースにAIコーディングも使ってUIを今風にしつつ、機能追加とブラッシュアップを施した、というものになります。
そんなこんなで1~2週間ほど作り込み、ひと通りの体裁が整ったところでストアに登録してみることにしました。まずは「Microsoft Store 開発者プラットフォーム」のページにアクセスし、各種情報を入力して開発者としての登録を行ないます。
「Microsoft Store 開発者プラットフォーム」のページ
最初に決めておくべきことは「正式なアプリ名」(英語版も作るなら英語名も)と、「個人として配布するのか、法人として配布するのか」です。今回、筆者は会社として配布することにしたので、以降は法人前提の手順となりますが、法人の場合は「D-U-N-S番号」というものも必要になります。
個人で配信するか、会社として配信するかを決める
会社で配信する場合は「D-U-N-S番号」が必要
あまり聞き慣れないD-U-N-S番号ですが、これは世界的に使用されている企業の識別コードで、海外企業との取引が発生するような場面ではよく入力が求められます。
「そんなの我が社にはない!」と言いたくなるかもしれませんが、ごく最近会社を設立したのでなければ、多くの日本国内企業は自動的に採番されているようです。
筆者の会社もすでに登録されていたので、検索してその番号を入力しました。未登録の場合は無料で取得申請できますが、完了まで数週間かかることがあるようなので要注意です。まだアプリが公開できる状態になくても、いずれは公開するなら早めに開発者登録(D-U-N-S番号の取得申請)だけ済ませておくのが良さそうです。
検索して見つけた自社のD-U-N-S番号を入力
いよいよアプリ申請、連絡先情報は最小限でOKの場合も
D-U-N-S番号の入力後、次の要注意ポイントとなるのが「ストア ページに表示される連絡先情報」です。
今回は法人を選んだので、ここでは会社の住所やサポートページ(ホームページ)のURLを入力することになります。普通にオフィスのある会社なら気にせず素直に入力していけばいいのですが、筆者のような1人会社かつ会社住所=自宅住所である場合、若干の抵抗感はあります。
ところが、「ストア ページに表示される~」と書かれてはいるものの、最終的にストアページに表示する連絡先情報には別の設定も使えます。ここはあまり気にせず、正しい会社住所を入力していきましょう。
「ストア ページに表示される連絡先情報」を入力。「カスタマーサポートの Web サイト」もあらかじめ作成しておきたい
なお、サポートのメールアドレスやWebサイトはマイクロソフト側での審査項目に含まれる可能性があるため、この段階で準備済みの状態にしておくのがおすすめです。個人か法人か、アプリが小さいかそうでないかに関係なく、ユーザーからの問い合わせ窓口はきちんと用意しておくことが大事でしょう。
と、ここまでが開発者側の第一段階の手続きで、続いてはマイクロソフト側での確認に入ります。「通常5営業日」かかる確認作業……ですが、筆者の場合はわずか数分で終わってしまいました。
マイクロソフト側での確認作業は、この時は数分で完了
開発者登録が完了したら、次はお待ちかねのアプリ登録・申請です。「Microsoft パートナーセンター」にログイン後、「アプリとゲーム」ページへアクセスし、配布するアプリに合ったメニューオプションから「アプリ名の予約」をします。
「Microsoft パートナーセンター」にログイン
「アプリとゲーム」ページへ
「新しい製品」から適切なオプションを選択
「マウスカーソルげんそくん」を登録。同名のアプリが存在していたら名称変更が必要に
無事アプリ名を確定できたら、発行される各種情報を確認
その情報を使ってVisual Studioのプロジェクトと関連付ける
パートナーセンターでアプリのカテゴリを設定
配布用のアプリパッケージをアップロード
その後は配布するアプリの価格やカテゴリーの設定、アプリのインストーラとなるプログラムファイルのアップロードなどを行ないます。そして「サポート情報」の欄で連絡先情報を入力します。
ここでは先ほどの開発者登録時に指定した連絡先が選べるほか、代わりに必要最小限の情報だけ入力してそれを表示させることもできます。今回はメールアドレスとサポートページ(自社のアプリ紹介ページ)のみにしてみましたが、結論から言うと問題なく審査は通過しました。
「サポート情報」にはWebページURLとメールアドレスのみ入力して問題なし
しかしアプリによってはさらに別の情報も必要で、今回の場合は「プライバシーポリシー」と「制限付き機能の仕様に関する説明」を追加で登録しました。これは、「マウスカーソルげんそくん」がマウスカーソルを減速・加速させる時にキーボードのキー押下を取得する(グローバルキーフック)ためです。
実際の処理では「押されているか押されていないか」の判定にしか使っていないものの、「キー入力を取得する=ユーザーのプライバシーに関わる情報を取得する可能性がある」と見なされるため、プライバシーポリシーが必要。さらに、何のためにその機能を使っているのかを解説する「アプリ審査担当者向けの説明書」も用意しなければなりませんでした。
プライバシーポリシーはWebサイト上に用意したので、そのURLを指定
何のためにグローバルキーフックを使っているのかを説明する必要もアリ
あとはアプリのスクリーンショット、概要説明など、ストアページで表示する「Store 登録情報」の設定です。日本語と英語の両方を作りました。
アプリ概要や機能などの基本的な「Store 登録情報」を入力
スクリーンショットやアイコンもけっこうな数を登録する必要がある
ひと通り情報登録できたら、最後に「送信して認定を受ける」ボタンを押して申請。マイクロソフト側での審査が開始され、問題なければ数時間~数日でめでたくMicrosoft Storeでのアプリ配信がスタートします。
準備ができたら勇気を出して「送信して認定を受ける」ボタンをクリック
マイクロソフト側での審査へ
申請したのが日曜日だったためか、1日空けて、火曜日に審査を通過
Microsoft Storeで配信がスタートしたことを確認
ARM版のWindowsにも対応するなら動作検証はどうする?
ところで、Windows 11にはCPUの種類違いで「x64版」と「ARM版」という2つのバージョンが存在します。それぞれにアプリをネイティブ対応しようとすると、アップロードするプログラムもそれぞれに最適なものを作る必要があります。
後者のARM版Windowsに対応するパソコンは現時点でごく少数なので無理に対応する必要はありません。が、AIワークステーションとして2026年秋の登場が見込まれる「RTX Spark」もARM版Windowsのため、今後は無視できなくなりそうです。
なのでとりあえず対応しておきたい。のですが、肝心の実機が手元にないと動作検証できません。そこで筆者は「VM」(仮想マシン)に頼ることにしました。ARM版のWindowsをVM上で動作させ、そこにアプリをインストールして動作確認する、という寸法です。
VMでARM版Windowsを使う方法はかなり限られますが、今のところ一番安価なのはMicrosoft Azureの「Azure VM」というサービスを利用することです。ただし、Azure VMで動かすWindows自体にも「OSライセンス(使用権)」が別途必要で、それをどう調達するかも考えなければいけません。
「Azure VM」ではARM版Windowsを使用することもできる
事前に証明書なしのインストーラを使いVMでの動作を確認。その後Microsoft Storeで特定のユーザー(自分)にのみ公開してインストール→動作検証も実施した
これについてもいくつか選択肢はありますが、短期間の利用であれば1カ月単位での契約となる「Microsoft 365 Business Premium」(1カ月6,332円)がその使用権も付帯しているので、手っ取り早くて安価です。
結果的にその月額料金とVMを稼働した分の料金でプラス2,000円ほどかかりましたが、VMならではのアプリの問題点を発見するのに役立てることができました。
OSの使用権を得るなら「Microsoft 365 Business Premium」が一番安価
結果、VM使用料も含め計7618円の出費に
ちなみに、Microsoft Storeを利用するデメリットもやはり存在します。最も大きいのは、企業ユーザーだとその会社のセキュリティポリシーによってMicrosoft Storeからのアプリインストールが禁止されている場合があることです。ストアは企業ユーザー向けのアプリの配信に適しているとは言えないため、代替方法を検討することになります。
代替方法の1つは自分(自社)管理のWebサイトで証明書付きで配布すること。ただし、これは先ほども書いた通り年間約7万円というコストが自動的に発生します。それを避けたいなら、割り切ってインストール時の警告表示が出ることを覚悟して、証明書なしで配布する手が考えられます。
後者の方法を取る場合、ターゲットは「分かっているユーザー」ということになります。どうしてもユーザーは限定されてしまうため、可能な限りMicrosoft Storeを併用する形での配布とするのがベターでしょう。
今回筆者がリリースしたアプリも、最終的にはそのようなハイブリッドな配信としました。一般ユーザーには安心してインストールできるMicrosoft Store版を、制約のあるユーザー向けには自社Web配信のインストーラ版を、という形です。
最終的にはMicrosoft Storeだけでなく自社Webでも配信することに
なお、自社Web配信版に証明書がないときは、ファイルの出自を担保できるようダウンロードリンクの隣にチェックサムも表記するのが良さそうです。ユーザー側ではツールを使ってダウンロードファイルのチェックサムを計算してもらい、それがWebサイト上のチェックサムと同一であれば、改ざんのされていないファイルであることを(ユーザー側で)確認できる、というわけです。
ストアと自社Webの二重管理になるため手間は少し増えますが、できるだけ多くの人に使って欲しいなら、こういったハイブリッドな配信方法を検討してみても良いのではないでしょうか。
日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスに。オーディオ・ビジュアル、PC、モバイル、ガジェット、ソフトウェア、モビリティ、フード、トラベルなど、いろいろな分野に首を突っ込む「なんでもやる系」ライターとして活動中。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。
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