「ロボットの赤ちゃん」で育児のシミュレーションをするだけでカップルのテストステロン値に変化が生じる
テストステロン値の変化は長期・短期のいずれでも観察されており、2011年の研究では男性のテストステロン値が父親になった後に低下する傾向がみられました。ロボットの赤ちゃん人形を用いた2012年の研究では、男性が泣いている赤ちゃん人形をうまくあやすことができた場合テストステロン値が低下し、泣きやまなかった場合はテストステロン値が上昇することが確認されました。
育児行為に伴うテストステロン値の変化に関するこれまでの研究は、主に赤ちゃんや赤ちゃん人形を1人で世話した場合の変化に着目しており、カップルが共同で育児にあたった場合についてはよく知られていません。そこでアメリカ・ミシガン大学の社会福祉・心理学の博士過程に在籍するレイチェル・ブランドン氏らの研究チームは、子どものいないカップルが赤ちゃん人形を世話した際、テストステロン値がどのように変化するのかを調べる実験を行いました。
ブランドン氏と論文共著者のロビン・エデルスタイン氏は心理学系メディアのPsyPostに対し、「男女ともに競争や攻撃的な状況下ではテストステロン値が上昇する一方で、育児などの養育的な状況下では低下する傾向があります。本研究では、この点についての調査を2つの方法で拡張したいと考えました。1つ目は、カップルが一緒に赤ちゃんの世話をする際に、テストステロン値がどのように変化するのかを調べることです。2つ目は、カップルが育児経験を積むにつれて、テストステロン値の反応がどのように変化するかを調べることです」と述べています。
研究には少なくとも1年間同居しており、今後5年以内に子どもを持つ予定がある子どものいないカップル30組が参加しました。カップルの年齢幅は20~40歳で平均年齢は27歳、平均交際期間は5年半ほどであり、約13%が同性カップルでしたが全体の男女比は半々でした。被験者らは実験室を訪れる前に、将来の育児能力に関する自信や、親になることの個人的な価値や責任の度合いが測定されました。
ブランドン氏らは、「本研究のユニークな点は、カップルが親になる前に調査を行ったことです。すべての対象カップルには子どもがいませんでしたが、今後5年以内に子どもを持つ予定であり、サンプルには同性カップルも含まれていました。これにより、人々が実際に育児を経験する前に、どのように育児に対応するのかを知ることができました」と述べています。
実験には育児教育で使用されるロボットの赤ちゃん人形が用いられました。赤ちゃん人形は見た目や重さ、声などが本物の赤ちゃんそっくりで、一定間隔で泣くようにプログラムされています。また、専用の哺乳瓶による授乳やげっぷを出させること、体を揺らしてあやすこと、オムツを替えることなどのケアが必要であり、人形内部のセンサーによって養育者がどれほど優しく扱っているのか、世話が時間通りに行われているのかどうかが測定されました。また、被験者は専用のリストバンドを装着し、それぞれのパートナーがどれほどの頻度で世話に当たったのかもわかるようになっていました。
カップルは金曜日の午後に実験室を訪れ、赤ちゃん人形の世話に関するトレーニングを受けた後、人形に名前を付けました。そして2人は10分間にわたり一緒に人形の世話を行って、世話の直前と世話から10分後に採取した唾液サンプルからテストステロン値が測定されました。
その後カップルは自宅に赤ちゃん人形を持ち帰り、月曜日の朝まで自宅で人形の世話を行いました。子育てにおけるさまざまな課題を反映するため、カップルの半数は赤ちゃん人形が夜間に3~6回泣きながら目を覚ますように設定された「睡眠妨害グループ」に、残る半数は人形が朝まで静かに眠るように設定された「安眠グループ」に割り当てられたとのこと。被験者らは月曜日に再び実験室を訪れ、週末の感想について報告したほか、金曜日と同様に10分間の育児シミュレーションと唾液サンプルの摂取を行いました。
金曜日に行われた10分間の育児シミュレーションでは、男性の平均テストステロン値は作業後に0.60%上昇し、女性の平均テストステロン値は作業後に3.29%低下しました。ところが月曜日に行われた2回目の育児シミュレーションでは、作業後のテストステロン値は男性で平均9.09%減少し、女性では平均11.53%減少しており、男女ともに育児によってテストステロン値が大きく低下することが確認されました。
2回目の育児シミュレーションによるテストステロン値の低下は、カップルが睡眠妨害グループに割り当てられたのか、それとも安眠グループに割り当てられたのかに関係なく生じていました。また、週末に測定された客観的な育児スコアや主観的なストレスおよび楽しさも、月曜日のテストステロン値の変化に影響していませんでした。やや意外なことに、金曜日のセッションでテストステロン値が上昇した被験者は、週末の育児シミュレーションによるストレスが少なかったと回答する傾向がみられました。
ブランドン氏らは、「平均して最初のセッションよりも2回目のセッションでテストステロン値の低下が大きかったことに驚きました。この違いは、特にまだ子どもがいない人々の間で、この課題の目新しさが最初のセッションにおけるホルモン変化のばらつきに寄与した可能性を示唆しています」とコメントしています。
金曜日と月曜日のセッション間におけるテストステロン値の変化は、被験者が実験前に報告した子育てへの態度や姿勢に関連していました。赤ちゃんのことを快適に思っている人、あるいは親になることに高い価値を置いている人は、月曜日と金曜日いずれのセッションでもテストステロン値の低下がみられました。一方、赤ちゃんに対して不快感を抱いていたり親になることに重きを置いていなかったりした人は、金曜日にはテストステロン値の低下がみられなかったものの、月曜日にはテストステロン値が急減したとのことです。
今回の研究では全体的に男性の方が女性よりもテストステロン値が高かったものの、実験におけるテストステロン値の変化率は男女でほぼ同じでした。観察されたテストステロン値の減少は比較的小さかったものの、それでも行動に現実的な影響を与え、育児にメリットをもたらす可能性があります。
なお、実験の被験者は主に白人で大卒の中流階級のカップルであり、サンプル数も比較的小規模だったことから、今回の研究結果をそのまま人口全体に反映できるとは限りません。また、実際の赤ちゃんを対象にした育児ではなく赤ちゃん人形を用いていた点や、「金曜日と月曜日に育児シミュレーションを行ったものの、週末に赤ちゃん人形を持ち帰らなかったグループ」が含まれていない点にも注意が必要です。
今後の研究では実験室で短期間だけ育児シミュレーションをするカップルを被験者に含めたり、より大規模で多様なカップルを対象にしたり、ストレスホルモンであるコルチゾールの値を計測したりすることで、より詳しく子育てがカップルにもたらす影響を調べることができるとのことです。
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