【鈴木淳也のPay Attention】PayPayを起点に銀行サービスを変える PayPay銀行システム刷新が目指すもの
PayPay銀行プロダクト統括本部統括本部長の平川宗則氏
PayPay銀行の話題だが、今回は「サービス開発」の視点からお届けしたい。今回インタビューさせていただいたPayPay銀行プロダクト統括本部統括本部長の平川宗則氏はもともとYahoo! JAPANのエンジニアとして在籍しており、2018年のPayPay立ち上げ時にはプロダクト開発として参画して、国際色豊かな開発メンバーの中で活動してきた。
PayPayという製品は日本でもコード決済がまだ黎明期という頃に開発がスタートしており、すでにインドで人気となっていたPaytmとの提携でそのノウハウを取り入れることで成熟度が上がってきたという経緯がある(一部でAlipayの支援を受けた中国出身のサービスという話が広まっているが間違い)。
実際、初期のPayPayを取材すると開発におけるキーマンの多くはインド出身の人物であり、その影響力の大きさが分かる。一時期、PayPayの製品開発では日本、インド、カナダという3つのタイムゾーンを駆使した24時間開発を行なっていたが、これはPaytmの拠点を利用して密に活動していた名残りでもある。
だがサービス立ち上げ後は、日本の市場に合わせた自前開発へとシフトすることを目標に「日本のマーケットに特化したプロダクトを自分たちで作っていく」という方針の下、徐々にPaytmからのサポートを薄めて自立した内製開発へと移行していったという流れだ。
結果として、3拠点開発から日本での開発に集約する形になったものの、依然としてPaytmとは良好な協力関係を築いている。後ほど触れるインド拠点を同社の近くに設けた際にも「お互いのエンジニアを引き抜くようなことはしない」と取り決めており、互いを尊重する関係は続いている。
日本のエンジニア、インドへ行く
前述のようにPayPayのエンジニアは国際色豊かだ。2025年時点でのデータだが、エンジニアの約8割は外国籍であり、その出身国は世界中の45カ国にわたる。一方で悩みとしては、優秀なエンジニアは引く手あまたで確保が難しく、開発を加速させるにあたってチームをいかに大きくするかという課題があった。
そこで平川氏はPaytmとの協業経験を経て2022年10月からインドの優秀なエンジニアを活用していくことを考え、インドで開発のための現地法人を立ち上げることになった。
「Pay2 Development Center」という名称でスタートした開発センターは、後に「PayPay India」となり、より本格的な現地拠点としての活動を活発化させている。2024年6月のプレスリリースによれば、当時すでに60名が在籍しており、さまざまなプロダクト開発に携わっている。拠点のあるインドのハリヤナ州は首都ニューデリーを囲む都市圏エリアだが、ニューデリーに隣接するウッタル・プラデーシュ州にはPaytmの本社があり、ある意味でご近所だ。
当初、平川氏がインドに行って拠点を構える際に、Paytmのオフィスの間借りやエンジニア採用での協力といった話もあったようだが、最終的に独自でもやっていけるだろうとの判断で現在の体制に至っている。なかなかにチャレンジングだ。
平川氏:インドはエンジニアの育成にすごく国として力を入れていて『エンジニア大国』みたいな感じですけど、やはりその中でも本当にトップレベルの質の高いエンジニア、すごい優秀なエンジニアはどこも獲得競争が激しい。たくさんいる母集団から優秀なエンジニアを見つけて採用するのもさることながら、彼ら自身もエンジニアとしてのキャリアを成長させたいという思いがあるので、そういった優秀なエンジニアをいかにリテンションしてPayPayの中で活躍してもらうかというのは、大変でした。
では、なぜそうしたエンジニアがPayPayで働いてくれているのか? やはり、Paytmをはじめ、インドのUPI(インドのインターバンクシステムで標準的な決済手段)や、デジタル決済はインドでもやはり注目度が高く、またお金を扱うので作らなければならないシステムの要求の高さや難しさから、それに関わるエンジニアというのはキャリアとして成長できるという点で皆さん理解があります。
そうした中、日本の中で今急激に成長している会社というのは彼らとしてもすごくチャレンジな機会ですし、日本ならではの求められるサービス品質もある。そういう高い技術レベルの中で仕事したいという人がたくさん応募してくれています。
そうした現地生活も3年4カ月が過ぎ、PayPay銀行のプロダクト開発を進めるため、改めてプロダクト統括本部という形でいくつかの本部を取りまとめる形で日本に戻り、本部長へと就任することになった。
インド拠点の平川氏。「One Big Team」のTシャツを着ている。なお、同氏が一番好きなインドカレーはマトン・ローガンジョシュだという。筆者も好きなカシミールカレーの定番だ(提供:PayPay)
現地スタッフの集合写真。真ん中にいるのは平川氏とPayPay代表取締役の中山一郎氏(提供:PayPay)
フロントはアジャイル的、バックエンドはマイクロサービス化へ
PayPay銀行の組織改変で開発体制を刷新するという話は、同社がPayPayグループに正式参画した2025年に遡る。PayPayというエコシステムの中で、いかにPayPay銀行のシステムをシームレスに連携していくかという議論は続いており、その布陣を考える中での帰国と新組織のリーダーシップという話に繋がったようだ。
もともと、PayPay銀行のシステムは前身のジャパンネット銀行の系譜を継いでおり、開発体制がベンダー依存、つまり外注比率が非常に高かった。
外注には外注のメリットがあるものの、内部に開発ノウハウが残りにくい、迅速な開発が難しいというデメリットがある。しかし、PayPayの強みの1つであるUI/UXを磨き込んで使いやすくわかりやすいサービスの実現には、内製の優秀なエンジニアが必要だ。高頻度のアップデートによるプロダクトの高速改善、いわゆるアジャイル的なものづくりを実現するには相応の体制が必要になる。
現在はまだ改善中だというが、システム基盤のモダナイゼーションの過程で開発プロセスや文化を変えつつ、フロントエンドなどのユーザーから見える部分はいかにわかりやすくするかというスピード感をもって改善を進めつつあるという。
フロントエンドに近い部分は特にアジャイル開発のようなスタイルが重要になるが、一方で銀行の勘定系など基幹システムは大量の決済トラフィックを安定的に安全に捌く必要があり、こちらも並行して改善が必要になる。
平川氏自身はYahoo!時代を通してバックエンドのエンジニアという経緯もあり、PayPayでのノウハウを活かしつつ一番力を入れているとのことだ。
だが、もともとPayPay銀行自体、エンジニア比率はそんなに高くはなく、内製に切り替えるにはエンジニア比率を増やしていかなければいけない。モダナイズの過程でシステムのマイクロサービス化が段階的に進んでいるが、もともとPayPay自身がマイクロサービスで構成されたサービスであり、拡張性やメインテナンス性に優れている点でそれに近い仕組みになっていくのだろうと考えられる。
安定性・安全性とアジャイル。2つの異なる側面が要求される銀行システムの特性を語る平川氏
近年、ネット銀行(デジタルバンク)のビジネスモデルとしてBaaS(Bank as a Service)によるサービスの外部提供(Embedded Financeなどとも呼ばれる)が注目されている。ドコモSMTBネット銀行やみんなの銀行の事例が顕著だが、銀行システムの外部提供により預金口座数や残高が増やせることに加え、パートナーへのサービス提供の過程でシステム投資や運用負担をある程度利用料収入で賄えるため、低コストかつ薄利なビジネス構造になりがちなネット銀行を支える重要な柱ともいえる。
だが平川氏によれば、現時点で外部提供を前提にしたBaaSはPayPay銀行では考えておらず、あくまで現在進めているシステムのモダナイゼーションやPoC(Proof of Concept:概念実証)はグループ内での「ものづくりの基盤の変革」のためだという。
こうしたPayPay銀行、そしてPayPayグループの考えを支えるのが7,500万人というPayPayのユーザーベースだ。おそらく日本の労働人口を勘案すればほぼ飽和に近い状態にあり、この数字は金融業界でみてもトップクラスの水準にある。
まずはPayPayの決済サービスを起点として、「PayPay銀行」「PayPayカード」「PayPay証券」といったグループリソースをいかにシームレスに連携し繋ぎ込めるかが重要というわけだ。
PayPay銀行のシステムやアプリといったフロントもさることながら、この場合に起点となるのはPayPayアプリにおける“ミニアプリ”であり、ここを通じていかにグループ内でユーザーをまわせるか、そのグループシナジーの最大化が一連の開発体制刷新の根幹にある。これはPayPay銀行のみならず、PayPayカードやPayPay証券も同様で、その中心はやはりPayPayにあるという考えだ。
金融サービスでは日本最大級の7,500万人のユーザーベースを持つPayPayを起点にグループシナジーを最大化していく
平川氏:いまのPayPayは日々の決済の中で使っていくサービスです。ただし、PayPay銀行のような銀行サービスを意識して使うタイミングは、人生のライフイベントであったり、毎月の支払いなど、日々何度も開けて使う決済とは異なります。今後は、そうしたいろいろなタッチポイントの中でいかに分かりやすいUI/UXのサービスを使っていただけるか。お客様のお金に関する課題解決という部分で、決済サービスを起点にグループ全体を通してどんどん磨いていければと思っています。
同時に、こうしたサービス開発にあたってPayPayに興味を持ってもらえるようなエンジニアには次のようなメッセージを平川氏は発している。
平川氏:高いレベルのものづくり、すごくそういうのをやることにモチベーションがある、そしてそういう経験があって高い技術力を持っている方にはぜひ来ていただきたいです。銀行システムでは障害発生時でもお金の計算のズレは許されませんし、超PayPay祭りで大量のトラフィックが来ても拡張で耐えられるとか。セキュリティ関連でいまAIの進化から非常にホットになっていますが、こうした技術的課題や脅威にも解決法を考えていけるというのもあるでしょう。
何より、この市場環境の変化が激しい中でいろいろ変えていきたい、新しいものを作りたいといった、変化を楽しみながら改善していけるような、そういった前向きに捉えられる方、その中で成長していくという方に来ていただいて、一緒にものづくりができたらと思います。
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