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Wednesday, November 4, 2026

現代のチェスAIを動かす30年前のPCと昔のチェスAIを動かす現代PCが対決、100局の勝敗は?

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30年前のチェスAIを現代の高性能PCで動かす場合と、現代のチェスAIを30年前のPCで動かす場合ではどちらが強いのかについて、AIセキュリティ研究者であるニコラス・カーリーニ氏が実際に古いPCを用意してチェスAIを動作させ、100局の対戦を実施しました。

Could a modern chess engine on a Pentium have defeated Kasparov in 1996?
https://nicholas.carlini.com/writing/2026/algorithmic-improvements-chess.html

1996年2月10日、IBMが開発したチェス専用コンピューター「Deep Blue」が、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏をチェスの対局で初めて破りました。1996年の対戦ではカスパロフ氏が勝ち越しましたが、1997年の再戦ではDeep Blueが3.5対2.5で勝利しています。


Deep Blueの開発には当時数億円規模の研究開発費が投じられました。1997年にカスパロフに勝利した改良版Deep Blueは約120MHzで動作する30個のプロセッサと、チェスの局面分析に特化した480個の専用プロセッサを搭載し、1秒間に2億以上の局面を分析できました。

しかしカーリーニ氏は「カスパロフ氏に勝つためにこれほど大規模なコンピューターは本当に必要だったのか」「1996年当時の一般向けPCでも、現代のチェスAIを動かせばカスパロフ氏に勝てたのではないか」と考え、検証を実施しました。

カーリーニ氏が用意したのは1995年11月に登場した200MHzのPentium Proを搭載するPCで、メモリは64MB、マザーボードにはIntel VS440FXを採用しています。OSは1.44MBのフロッピーディスクから起動し、ネットワークカードを介してインターネットにも接続できるようにしました。

カーリーニ氏は1996年当時のチェスAI「Crafty 11.13」と、現代のチェスAI「Stockfish 17」を使って実験しました。Craftyは1996年12月に公開されたバージョンを使用し、Stockfish 17は古いPentium Proでも動作するように改造しています。

チェスAIの強さを比較するために使われるのがイロレーティング(Elo)で、数値が大きいほどチェスが強いことを表し、200ポイントの差があれば強い側が約75%の得点率を記録すると期待されます。カーリーニ氏によると、1996年当時の一般向けPCで動くチェスAIのEloは約2300、Deep Blueは約2700、現代のStockfishは約3700に相当するとのこと。

まず、1996年当時のCrafty 11.13をそのままPentium Proで動かしたところ、1手につき1秒考える条件で1999±90、10秒考える条件では2383±77という結果になりました。

同じCrafty 11.13を現代の「Ryzen 7」搭載PCで動作させると、1手につき1秒の条件で2614±97に向上しました。プログラムを変更しなくても、PCの処理性能が向上するだけでチェスAIは大幅に強くなることがわかります。

続いてカーリーニ氏はCrafty 11.13に、重要度の低い手の分析を省略する探索アルゴリズムの改良やニューラルネットワークによって局面の有利・不利を評価する「NNUE」の導入など、過去30年間で開発されたさまざまな改良を加えました。改良を重ねたCraftyは、Pentium Pro上でも1手につき1秒の条件で2718±34、10秒の条件で2974±74に到達しました。つまり、約30年前のPCを使い続けていても、チェスAIのプログラムを改良するだけで大幅に棋力を向上させられたというわけです。

カーリーニ氏はさらに現代のチェスAIであるStockfish 17をPentium Pro上で動作させることにも挑戦しました。Stockfish 17は現代の64ビットCPUなどを前提として設計されているため、32ビットのPentium Proで動作させるには64ビットのデータを32ビットの整数2個で扱うように変更したり、マルチスレッド処理や一部の機能を削除したり、71MBのニューラルネットワークを小型のものに置き換えて64MBしかないメモリに収まるようにしたりなど、大幅な変更が必要でした。

最初に移植したStockfish 17は、Pentium Pro上で1手につき1秒の条件で2496±64、10秒の条件で2940±76という棋力を記録しました。そこからさらに、ニューラルネットワークの処理を軽量化したり、古いCPUに合わせて探索アルゴリズムを調整したりすることで性能を改善しています。

最終的に、Pentium Proで動作するStockfish 17は1手につき1秒の条件で2846±35、10秒の条件で3109±79、30秒の条件では3180±80に到達しました。カーリーニ氏はさらに長い思考時間を与える公式戦に近い条件では、約3300の棋力に達すると推定しています。

カーリーニ氏は「現代のチェスAIを動かす30年前のPC」と「30年前のチェスAIを動かす現代のPC」を直接対戦させる実験も実施しました。前者にはPentium Pro上で動く改良版Stockfish 17、後者にはRyzen 7上で動く1996年版Crafty 11.13を使用しています。100局の対戦結果はPentium Pro上のStockfish 17が78勝17引き分け5敗でした。つまり、現代の高速なPCで古いチェスAIを動かすよりも、古いPCで現代のチェスAIを動かした方が圧倒的に強かったというわけです。

カーリーニ氏はチェスAIの棋力向上におけるハードウェアとソフトウェアの貢献も比較しています。1996年から現代までの棋力向上に相当する1335ポイントのうち、720ポイントはプログラムの改良によるものと分析しました。つまり、チェスAIの進歩の半分以上は、コンピューターの高速化ではなくアルゴリズムの改善によって実現した計算になります。また、1996年当時のカスパロフ氏のEloは2800弱だったため、カーリーニ氏は「古いPentium Pro上で動作する改良版Stockfishでもカスパロフ氏を破れる可能性が極めて高い」と予想しました。

もっとも、コンピューター同士の対戦で算出したEloと、人間の公式戦で使用されるEloは直接比較できません。また、約3300という数値も長時間の対局を実際に繰り返して測定したものではなく、短時間の対局結果から推定したものです。カーリーニ氏はこうした違いを認めつつ、十分な棋力差があるため結論は変わらないだろうと述べています。

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