[ITmedia ビジネスオンライン] 【主張】そもそも正社員という呼び名をやめよう――竹中平蔵氏「正社員をなくせ」を受けて
「正社員をなくせばいい」――慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏がXでこう発信したことが、賛否両論を巻き起こす形で反響を呼びました。
「正社員は守られすぎだ」と見る人もいれば「安定した雇用を奪うのか」と反発する人もいるかもしれません。ただ、そもそも「正社員」とは何なのでしょうか。
実は「正社員」という言葉に法律上の定義はありません。対になる「非正規社員」も同様です。こうした名称から、ともすると正社員だけを正しい働き方だと見なし、非正規社員は正しくないかのような二元論でくくられがちです。
ところがそんな状況を尻目に、実際の職場では、どちらにも分類し難い“第3極の雇用形態”で働く人が増えてきています。
曖昧(あいまい)さを伴う観念的な議論の中で取り残されている雇用の現状と、マネジメント上の可能性や課題について考えてみたいと思います。
正社員でも非正規社員でもない“第3極の雇用形態”で働く人が増えている(ゲッティイメージズ)
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
「実務×調査×生活」の横断的見地から、最適な働き方に関する提言を行う。愛知大学文学部卒。20年以上に渡り、人材サービス企業の役員・管理職として事業現場から管理部門まで幅広い領域に従事。『しゅふJOB総研』にて、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層のべ5万人以上の声を調査・分析し、厚生労働省委託事業検討会委員・技術審査委員などを務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演・執筆多数。
「正社員は解雇されない」は本当?
正社員をなくした方がいいという考え方の根底には、解雇しづらい雇用形態で、特権のように守られているという認識があります。職場では正社員の雇用を守ることが優先されるため、非正規社員は不安定になるという図式です。
不況や経営不振などで正社員の整理解雇を検討する場合は、
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
の4要件を満たさないと解雇権の乱用と判断されます。
過去の判例などからも、先に非正規社員の雇用契約を解除しなければ4要件を満たしたと見なされない傾向がうかがえ、正社員雇用は強く守られている印象を受けるのは確かです。
とはいえ、正社員が解雇されないというわけではありません。ここに、日本の解雇制度の分かりにくさが表れています。
厚生労働省の2025年度の統計では、解雇に関する民事上の個別労働紛争の相談は年間3万2651件ありました。相談に至らなかったケースも含めれば、解雇を巡るトラブルは相当な数に上るとみられます。
実は、日本の法律に「解雇してはいけない」という一般的な規定はありません(業務上の負傷中など個別の例外を除く)。あるのは解雇権の乱用を認めないとする規定です。労働契約法の第16条には、以下のようにあります。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
解雇しても、社員が訴え出なければ規制は緩いと見なすことができます。一方、解雇権の乱用に該当するのを避けようとする職場にとっては、解雇規制が強いと感じられます。
この両極端を解消するには、解雇規制の緩和でも強化でもなく、解雇が成立するケースとしないケースを明確化する整理が必要です。
他方で、解雇規制を整理したところで、正社員を解雇しやすくなるとまでは言えません。正社員とは、いわゆるメンバーシップ型の無期雇用だからです。メンバーシップとは、その職場の一員としての無限定契約を意味します。勤務地も職務も限定されず、職場の意向で配置転換されることが基本です。
その代わり、いまの勤務地が廃止されたり担当職務がなくなったりしても、他の勤務地に異動するなどして雇用は守られます。職場が配置転換できる権利を持っているからには、解雇規制を整理したとしてもできる限り社員の雇用を守る義務を負うのが筋だと言えます。
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