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Friday, October 16, 2026

火星の衛星「フォボス」の砂を地球へ! 世界初を目指すJAXA「MMX」の採取作戦とは?

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種子島宇宙センターで公開された火星衛星探査機「MMX」と川勝プロジェクトマネージャ(撮影:秋山文野)

10月20日に種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打上げられる火星衛星探査計画「MMX」は、火星の衛星「フォボス」から表面の物質を地球へ持ち帰る、成功すれば世界初となるミッションです。日本にとっては「はやぶさ」「はやぶさ2」で培った小天体サンプルリターンの経験を火星圏へ広げるチャレンジでもあります。

これまでの経験を引き継ぐ一方で、フォボスではサンプルの「採り方」そのものは大きく変わります。日本とNASAが用意した2種類のサンプル採取装置の技術から、MMXミッションの独自性を考えてみましょう。

「はやぶさ」の経験を継ぐのに、なぜ同じ方式ではないのか

2005年に小惑星イトカワの物質を採取した「はやぶさ」、2019年に小惑星リュウグウでサンプルを採取した「はやぶさ2」の経験で、JAXAは小惑星へ接近して表面物質を取得し、それをカプセルに収めて地球まで持ち帰るという一連のサンプルリターン技術を確立しました。MMXはその延長線上にありますが、探査対象はイトカワ、リュウグウとは性格の異なるフォボスです。

フォボスは、火星の2つの衛星のうち、差し渡し約22kmと比較的大きなほうで、小惑星に近いサイズや形を持っています。もう一方の衛星ダイモスと同様に、その成り立ちについては2つの仮説のどちらがあてはまるのかまだわかっていません。

仮説のひとつは、太陽系内で飛来してきた小惑星が火星の重力に捉えられて衛星となったというもの。もう一つは火星の表面に隕石が衝突して巻き上げられた岩石が軌道上で集まって衛星になったというものです。サンプル採取はこの仮説に答えを出す、惑星科学の研究として世界の注目を集めています。

MMX模型(撮影:小林伸)

MMXのハイライトはフォボス上空で地形を判断しながら表面へと降下・着陸して2時間程度の時間でサンプルを採取するというミッションです。集められたサンプルは2031年に地球に届けられる予定です。

惑星科学の研究上の観点から、表面から2cm以上の深さで採取した、10g以上のサンプルがほしいという要求に応える必要があります。過去の「はやぶさ2」のときは、採取目標量は0.1gでした(実際の採取量は5.3g)。実績あるはやぶさ方式にはメリットがあるものの、同じ方式では「はやぶさ2」目標量の100倍の量を確実に採るのは難しいことから、新しくロボットアームを使用する方式が選ばれました。

「はやぶさ/はやぶさ2」は、「サンプラホーン」と呼ばれる採取装置から弾丸状の発射体を小惑星表面に打ち込み、巻き上がった表面の物質をキャッチする方式です。小惑星で日常的に起きている微小な隕石の衝突に近く、人の手を使えない宇宙でロボット探査機が確実に動作できる方式ですが、採取する量のコントロールは難しくなります。

主要なミッション機器が取り付けられたMMXの底面(撮影:秋山文野)

主役は日本開発のC-SMP――「掘る」のではなく筒を打ち込む

3回目の小天体サンプルリターンに「量」の要求を取り入れたい。そこでMMXプロジェクトが考案したのは、ロボットアームの先端に「コアラー」と呼ばれる円筒状の採取容器を備えた「C-SMP」サンプリング装置でした。川勝康弘プロジェクトマネージャは、「地質調査のボーリングで採取する『コア』と同じ発想」と説明します。

コアラーは直径約2cm、長さ10cm弱の筒で、強力なバネでフォボス表面へ打ち込むようになっています。するとフォボス表面のレゴリス(パウダー状の砂)が筒の中に入り、引き抜く際には先端側の蓋が閉じて試料を容器に閉じ込める仕組みです。

1回の採取ミッションだけで10g以上の採取を目指していますが、採取ミッションは2回実施する予定です。

JAXA 火星衛星探査機プロジェクトチーム 川勝康弘プロジェクトマネージャ(撮影:小林伸)

火星衛星探査機プロジェクトチーム プロジェクト統括科学者 倉本圭北海道大学教授(撮影:小林伸)

コアラー方式は、ロボットアームの役割が非常に大切です。コアラーを上下させるだけではなく、確実に採取できる位置までコアラーを移動し、採った試料を回収機構へ移す役割も担っています。深宇宙でロボットアームを確実に動作させるという技術的な難度は上がりますが、採取の自由度が大きくなります。

MMXのJAXA開発採取装置「C-SMP」のコアラー部分の模型と実物大カットモデル(撮影:小林伸)

ロボットアームが「どこに筒を刺すか」は探査機の自律的判断に加えて人の判断が入ります。サンプルリターンの難題は、数cm級の細かい位置の違いで採取の成否が決まることにあります。

フォボスの表面はある程度、過去の探査で大まかな様子がわかっていますが、「ここにはレゴリスがある」と判断した場所であっても、コアラーを打ち込む適地は、細かな地形や岩石、砂の大きさなどその場でしかわからない微妙な判断が入ります。ここは人が考える領域です。

MMX探査機は着陸後に格子状にレーザー光を投影してその画像のゆがみから、表面の三次元形状を把握します。その情報は地球へ送られ、最終的に人間が採取位置を決めます。

位置を指定した後のアーム操作とコアリングは探査機が自律的に実行します。火星圏では通信に片道15~20分ほどかかるため、全てを地上から操作する余裕はありませんが、ロボット探査機と人間のチームワークで確実なミッション遂行を目指すのです。

もう一つの採取手段 NASA提供サンプラー

NASA提供のP-SMP(ニューマチック・サンプラー)は、C-SMPと異なり、窒素ガスを吹き付けて、舞い上がったレゴリスを取り込む方式です。原理はNASAの小惑星探査機OSIRIS-RExで使われた実績のある方式で、MMXでは着陸脚に取り付けられています。

4脚の着陸脚のうち1本にNASAの「P-SMP」が取り付けられている。レゴリスが確実に容器に収まるよう、独特の返しも装備された(撮影:秋山文野)

2回の着陸、2種類のサンプラーをどう使うのか

フォボス着陸はミッション全体の中で2回予定されています。1回目はC-SMP+P-SMP、2回目はC-SMPのみとなっています。1回目の着陸で最初にC-SMPがレゴリスの採取を終えた後、離陸直前にP-SMPを作動させ、ガスを噴射して試料を回収してから上昇するというシーケンスが組まれています。重要なのは「2回合わせて10g」ではなく、C-SMPだけで1回のサンプル採取目標が10g以上だということです。

これまでの観測で、フォボス表面には表面の物質に青みがかった地域と赤みがかった地域があることがわかっています。物質そのものが異なるのか、あるいは宇宙線などの作用による風化の度合いや砂粒の大きさの違いを反映しているのか、理由はまだわかっていません。

とはいえ、違いがあるならば両方ほしい、というのがサイエンティストの自然な探究心です。科学的に異なる特徴を持つ2つの地点からの採取が可能になれば、大きな成果が見込めます。

そこで、複数回の採取をすることで、より多様なサンプルを持ち帰ることができるようにミッションが設計されているのです。必須の採取目標の10gはC-SMPの1回だけでも可能になるように設計されていますが、採取を2回に分けた上にP-SMPを組み合わせれば採取量アップも可能になるでしょう。NASAとJAXAの協力により「取れ高」を上げる仕組みといえそうです。

ロボットアームと一体になった日本の「C-SMP」(撮影:秋山文野)

2つのサンプル採取機構をつなぐ役割を果たすのが、今回取り入れられたロボットアームです。C-SMPミッション時にはコアラーを打ち込んで引き抜く役割を、P-SMPミッションではサンプル採取容器を取り外して帰還用のカプセルに収めるという大役を果たします。

深宇宙で確実に動作するよう、ロボットアームにはさまざまな安全面の対策が含まれており、その一つがダスト対策です。採取ターゲットであるレゴリスは、ダスト状の砂という機械の動作環境では関節に噛み込んで動作を妨げかねない、対処が難しい性質を持っています。

着陸の動作でも巻き上げられてしまうことから、軸受の部分に微粒子が入っても焼き付きや摩擦増加を起こさない設計になっています。また多層断熱材のシールドも施され、試験ではダストの舞う環境下で50回以上の動作に耐える堅牢性を確認するなど対策されています。

「はやぶさの技術を継ぐ」とは何か

目的地と科学要求が変われば、サンプルの採り方も変わります。小天体から物質を採取して遠い天体から地球へ持ち帰るという経験を土台にしつつ、MMXは火星衛星のフォボスに合わせてコアラー方式を新たに開発し、さらにNASAのガス式サンプラーを組み合わせています。技術の継承とは同じ装置を使うことではなく、異なる天体に合わせてサンプルリターン技術を進化させることだといえるでしょう。

新たな管制室

打上げ前のリハーサルから2031年のミッション終了まで、MMXを運用する拠点がJAXA相模原キャンパスに新設されました。火星圏への軌道投入やサンプル採取ターゲットの決定といった重要な瞬間の中心地でもあり、日本の新たな宇宙探査の舞台となります。

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