[ITmedia エグゼクティブ] データを「重さ」に変えた直感ゲームがグランプリ e-ZUKAスマートアプリコンテスト2026
著者
星原康一
[ITmedia]
福岡県飯塚市で2026年10月10日、地域課題の解決をテーマにしたアプリコンテスト「第15回 e-ZUKAスマートアプリコンテスト2026」(主催:飯塚市、共催:九州工業大学、飯塚市教育委員会)のグランプリを決める最終審査会が開催された。
全国から応募された54件のエントリーから、一次審査を通過した中学生の部 3作品と一般の部 8作品が最終審査会へ進出。各チーム7分間のプレゼンテーションと6分間の質疑応答で技術力とアイデアをアピールした。
一般の部のグランプリは、各種オープンデータの数値を「重さ」として表現し、地図上で市の重心を探すアプリ「飯塚市の重心」が輝いた。中学生の部の優勝は、飯塚市の名所をすごろく形式で巡回しながらスコアを競うゲーム「I-I観」、小学生の部の優勝は、キャラクターを矢印キーで操作し、壁に触れずにゴールを目指す河野立実さんの作品が選ばれた。
生成AIでハードルが下がったからこそ「発想力」が問われる
最終審査会は、九州工業大学 情報工学部 飯塚キャンパス ラーニングアゴラ棟にて、11時から17時半までの6時間半にわたり開催された。
開会のあいさつで登壇した飯塚市長の武井 政一氏。「e-ZUKAスマートアプリコンテストが地域の課題解決をビジネスへとつなげていく、そのための新たな舞台となることを期待している」と述べた
審査委員長を務めた九州工業大学大学院 情報工学研究院 教授の斎藤 寿樹氏。「生成AIの発展によって、アプリ開発は取り組むハードルが非常に下がった。だからこそ、何を課題として捉え、どのようなアイデアで解決していくのか、その発想力がますます求められる」と語った
小学生の部・中学生の部のテーマには「『あったらいいな』こんなもの」が設定された。
小学生の部は、応募作品のみで審査され、河野立実さんが優勝に輝いた。
中学生の部は、10件の応募から3チームが最終審査に進み、プレゼンテーション・質疑応答に臨んだ。
優勝は、飯塚市立 庄内中学校 3年生のI-I観(いいかん)による同名の観光すごろくゲーム「I-I観」。「地域の人たち、特に子どもたちがこの地域の魅力的なスポットを知らない」と感じたことがきっかけだ。
I-I観では、飯塚市の名所を配置したすごろくマップ上で、スタート地点とゴール地点がランダムに決まり、さいころを振りながら移動する。サポートカードも用意されており、対戦相手の移動を妨げたり、自分の移動距離を延ばしたりできる。ゴール地点に止まると、「九州初の人工芝スキー場がある施設」(サンビレッジ茜)といった観光情報が表示され、飯塚市のことを知ることができる。
第2位は、飯塚市立 飯塚第一中学校 3年生の鎌足四重奏(かまたりカルテット)によるゲーム「反射神経鍛えマシン改」。昨年の優勝作品に新難易度「絶望」を加えて強化した。プレゼンテーションではゲームで鍛えた反射神経をアピールするため「アルゴリズム体操」も披露した。
飯塚市立 飯塚第一中学校 3年生の鎌足四重奏(かまたりカルテット)
第3位は飯塚市立 飯塚第一中学校 2年生のInnovation(イノベーション)による学習支援アプリ「リミット・ハック」。こちらも昨年応募作品の改善版だが、ゲーム機能を「勉強と遊びの区別がなくなった」という理由から外し、UIをモノトーンにするなど、勉強に集中しやすいアプリに作り直した。
オープンデータで地域課題に挑んだ8作品
一般の部は、「まちづくり」「教育」「福祉」「経済(地域経済・観光・農業)」「災害」の5分野から1つを選び、参考資料から地域課題を導き出す分析力と、創造的・独創的で市民生活の向上につながるアプリ開発力を競う。43件の応募から8作品が最終審査に進んだ。
グランプリに輝いたのは、痛快技術株式会社 ひげだるまによる「飯塚市の重心」。人口などのオープンデータを「重さ」に変換し、3D表示された飯塚市の地図上で重心を探すゲームだ。何のデータを使うかを選択した後、重心と推測される場所にボールを置く。不正解の場合は地図が傾きボールが転がり落ちてしまう。
作者のひげだるまは問題を増やそうと、学校、交通、森林など40種以上のデータを探したが、重心はほとんど中心市街地に集まってしまったという。だがその過程で、「この地域にはどういう特性があるのかを探しながらデータを探して試す。このサイクルが生まれた」と気づいた。
「オープンデータは公開してもなかなか使われないと言われるが、そもそもデータがあることに気づいてもらうことが大事なのではないか。私もこのゲームがなければ、40種以上のデータがあることにすら気づけなかった」(ひげだるま)
人口減で居住地が変わっても重心は約41メートルしか動かない、20歳男性の重心は全体より北北西に約300メートルずれている、など興味深い傾向が表れた。数字から「重心」を出すことで、興味深い「なぜ」が生まれたという。
優勝したひげだるまには、賞金30万円と、飯塚市のインキュベーション施設1年間無料貸し出し権が贈られた
その他の作品は以下のとおり。
「めししるべ飯塚」(九州工業大学 三角 優斗氏): 食事の記録からおすすめの飲食店と観光地を提示するアプリ。料理写真をGeminiが分析して、料理名、ジャンル、調理法、味、食材などをタグ付けして記録する。記録した内容から、オープンデータなどを基におすすめ飲食店と観光ルートを作成する。記録した食事は、類似度でつないだ星座として振り返ることができる。星座は自分の好みのかたちに編集することも可能だ。
「かえれる」(内藤 千絵氏): 高齢者向けの帰宅支援サービス。飯塚市はバスの本数が少なく、外出先での所要時間次第で、帰宅にかかる時間が大幅に増えたり、帰宅そのものが難しくなったりするケースがある。そこで「用事が終わった後に帰り方を探すのではなく、出かける前に帰り方を準備する」発想に切り替えた。公共交通のほかに、家族の迎え、タクシー、Uberを移動手段候補に組み込み、事前に帰宅プランを立案しておける。スマートフォン操作に慣れない高齢者らが困らぬよう、「今終わった」ボタンを押すだけで次の行動の候補が大きな文字と音声で示され、必要に応じて家族とLINEなどでコミュニケーションをとる機能も用意されている。
「直方ベース」(株式会社42Works): 飯塚市に隣接する直方市の防災アプリ。同市の災害関連情報については現在のところ、避難所情報は市が作成した「災害時情報共有プラットフォーム」、ハザードマップは市が提供するPDFファイル、車中泊避難所は市の公式LINEと、提供形式にばらつきがある。直方ベースは、これらの情報を1つに集約し、複合的に認識できるようにした。また、想定浸水被害を確認するためのAR機能も搭載しており、スマートフォンのカメラで自宅を映すと、浸水時の水面がカメラ映像に描かれる。サーバレスのアーキテクチャで、公開データを直接読み込む設計もアピールされた。
「めっちゃかんご」(九州工業大学 むのうたち): 「看護師の負担を減らしたい」「入院患者の家族を安心させたい」という想いから生まれたアプリ。看護師モードと家族モードの2つの画面が用意され、電子カルテのAI要約、申し送りメモ、面談予約、家族とのメッセージ機能などを備える。看護師モードでは、患者1人当たり17分から7分に短縮できると見積もる。
「筑豊ライフラインAI」(大阪ガス株式会社 堤 泰樹氏): 筑豊弁の地元住民と外国語話者をつなぐオフラインの医療・介護通訳アプリ。2027年4月に始まる育成就労制度の影響で、外国人の働き手が医療・介護の現場にさらに増えると見込んで課題を設定した。患者の症状を聞き取るための医療従事者向け画面と、患者が症状を伝えるための患者向け画面があり、医療従事者向け画面では、音声入力された内容をやさしい日本語、指定の外国語に翻訳する。筑豊弁の辞書を独自に組み込み、外国人が聞きなれない方言にも対応している点がポイント。また、患者向け画面では、日本語がわからない外国人患者を想定し、痛む部位や症状、発症した時期をイラスト選択式で伝えられる。
「筑豊ライフラインAI」を開発した大阪ガス株式会社 堤 泰樹氏
「予定ナビ」(広島大学 香月 良太氏): 予定から逆算して、「いつどう移動するべきか」を示すアプリ。LLMを活用し、自然文で予定を入力できるのが特徴。例えば、移動先での滞在時間に言及がないなど、入力文章に情報が足りない場合は、質問が表示され、その回答結果に応じて入力文章が修正される。経路や時刻は、ナビゲーションサービスのAPIと公開時刻表で計算し、遅れが出れば、残りの予定を再計算する。
「みちのこえ」(九州大学大学院 WRing): 車いす利用者向けのルート最適化アプリ。車いす利用者が「選ばれなかった道」を手がかりにルートを作成する。おすすめルートは、通りやすい道と最短ルートの両方を提案。おすすめルートと実際に通ったルートが異なる場合にその差分を記録し、車いすの方が避けるべき道を統計的に推定する。初期状態でも航空写真から段差などを検出し、車いすで通りづらいであろう箇所があらかじめ登録されている。
一般の部、16の表彰結果
グランプリのひげだるまには、賞金30万円とインキュベーション施設の1年間無償入居権が贈られた。ひげだるまは「きっかけは『面白そう』から始まり、データを使うことで飯塚市に興味が持てた。今も面白いデータがあれば更新を続けている」と喜びを語った。
一般の部の受賞結果は次の通り。
| 賞 | 受賞グループ名(作品) |
|---|---|
| グランプリ | ひげだるま(飯塚市の重心) |
| 飯塚市長賞 | 香月 良太氏(予定ナビ) |
| 一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構賞 | 内藤 千絵氏(かえれる) |
| 株式会社セキュアサイクル賞 | 堤 泰樹氏(筑豊ライフラインAI) |
| タカハ機工株式会社賞 | ひげだるま(飯塚市の重心) |
| 株式会社トーマスラボ賞 | 香月 良太氏(予定ナビ) |
| トヨタ自動車九州株式会社賞 | WRing(みちのこえ) |
| 株式会社なうデータ研究所賞 | 堤 泰樹氏(筑豊ライフラインAI) |
| 株式会社NOTE賞 | むのうたち(めっちゃかんご) |
| 株式会社ハウインターナショナル賞 | ひげだるま(飯塚市の重心) |
| 一般社団法人ビジネス・アクション・クラブ賞 | 42Works(直方ベース) |
| ProtoPedia賞 | 内藤 千絵氏(かえれる) |
| 株式会社マネーフォワード賞 | 三角 優斗氏(めししるべ飯塚) |
| 株式会社リンクトブレイン賞 | 三角 優斗氏(めししるべ飯塚) |
| リョーサン菱洋株式会社賞 | むのうたち(めっちゃかんご) |
| 福岡県未来ITイニシアティブ | むのうたち(めっちゃかんご) |
「コンテストをゴールにせず、さらなる挑戦を」
講評では、審査委員長の斎藤氏が出場者に開発の継続を呼びかけた。
「最終審査出場者の皆さんは、今回のコンテストを1つの目標として準備してきたと思うが、ここをゴールにしてほしくない。開発したアプリをさらに発展させて実際の課題解決につなげたり、得られた技術を別のアプリの開発に生かしたりして、さらなる挑戦をしてほしい」
15回目を迎えた本コンテストでは、中学生から大学生、社会人まで、さまざまな立場のエンジニアが集まり、それぞれの考え方と技術上の工夫を共有した。生成AIが何より頼れる存在となりつつある昨今だが、やはり人同士の交流を通してしか得られない学びや、生まれてくる感情が少なからずある。地域のデータと課題を起点に、作り手と自治体、企業がつながる場として、コンテストの役割は大きくなっているのかもしれない。
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