[ITmedia エグゼクティブ] AI画像認識で検査効率化、技能継承やロボ自律制御にも活用へ 東芝総合研究所の落合誠所長
インタビューに答える東芝の総合研究所所長、落合誠氏=8月24日、川崎市幸区(高橋天地撮影)
モノを破壊せずに内部の構造や状態を調べる非破壊検査機器が一堂に会する「第13回総合検査機器展(JIMA2026)」が16日、東京・有明の東京ビッグサイトで始まる。非破壊検査機器は、構造物の維持や製品の品質管理に欠かせない技術となっている。東芝総合研究所(川崎市幸区)の落合誠所長(日本非破壊検査協会会長)に人工知能(AI)の活用や今後の課題などを聞いた。
--総合研究所を設立した狙いを
「社会課題が複雑化し、エネルギーやAIなど別々の研究組織では対応できなくなった。昨年4月に東芝グループの研究部門を統合し、事業の加速やソリューションの設計力向上を目指した。非破壊検査でも道路・橋梁(きょうりょう)や発電所の検査とAI研究者の連携が強くなった」
--非破壊検査におけるAI活用の現状と課題は
「画像認識で活用が進んでおり、熟練検査員による判定を効率化できるようになった。一方、AIは合否結果を示しても理由を説明しない。業界共通の基準も未整備なので、最終判断は人が担っている。ルールとガバナンスを整え、一定の条件下で活用する必要がある」
--AIの画像認識以外への活用や今後の取り組みについて
「橋梁の損傷時に生じる微弱な弾性波の分析や、超音波検査データと検査位置のひも付けにもAIを使うなど幅広い。将来は熟練技能の継承やロボットの自律制御にも広げ、劣化診断や寿命の推定、保守に関する意思決定を支援したい」
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AIが変える非破壊検査 合否判定から資産管理へ
人工知能(AI)とデータ活用は、非破壊検査を具体的にどう変えるのか。東芝の総合研究所再編の狙いから、画像認識、橋梁や超音波探傷への応用、熟練技能の継承、アセットマネジメント(資産管理)への展望まで、落合氏の説明から、非破壊検査の現在地と将来像を探る。
33年ぶり名称復活
東芝は昨年4月1日、本社の3研究所と事業会社の2開発センターを統合し、総合研究所を発足させた。傘下にエネルギー、インフラ、先端デバイス、AI・デジタル、生産技術などを担う7センターを置く。
同名称は1969~92年にも使われ、そこでは日本語ワードプロセッサやNAND型フラッシュメモリーなどを生み出した。歴史ある名称が33年ぶりに復活した。
研究者は東京都府中市、川崎市、横浜市など9拠点に駐在。川崎市・小向地区の新棟「イノベーション・パレット」は、総合研究所の千人規模の研究者が執務し、開設1年で社内外の2000人以上が訪れた。
背景に社会課題の複雑化
落合氏は再編の背景に社会課題の複雑化を挙げる。
「かつては本体設備と周辺機器を作り、お客様に納めればよかった。現在は効率的な使い方や保守保全まで考えなければならない」
課題はエネルギーや社会インフラ分野に留まらないとして、「さまざまな技術の融合が必要だ。エネルギー、社会インフラ、先端技術という研究所の分け方では対応できない。連携を強め、事業の加速やソリューションの設計力を高めるのが発足の趣旨だった」と説明した。経営・事業戦略と研究内容を合わせることも統合の目的だとした。
「一発勝負」からデータ活用へ
技術融合が期待される分野の一つが非破壊検査だ。落合氏は「道路や発電機器の検査と、AIや信号処理の専門家は別組織にいた。今は一つにまとまり、新たな可能性を考えられる」と強調する。
非破壊検査は対象物を計測し、データを伝送・構成して合否を評価する。従来はその場の計測データのみで判断する「一発勝負」だったが、現在は蓄積・活用する基盤作りも進む。
AI活用は画像認識が先行する。「目視検査や放射線検査も最後は画像を人が見て判断する。画像処理・認識はAI活用が最も進む分野だ」
課題は「説明性」
蓄積データをAIに学習させれば、熟練検査員の判定を効率化できるが、落合氏は「説明性の欠如」を課題に挙げる。「AIは『合格』『不合格』と答えても、判断理由を説明してくれない。支援・補助的には使えるが最終判断を任せるにはまだ課題が多い」
業界共通の基準や検証方法も未整備だと指摘。「安全に関わる分野では、間違いを恐れてAIを使わない判断に陥りやすい。だが、AIは使うことで改善される。立ち止まれば、活用を進める国との差が広がる」。解決には「ルールとガバナンスを整え、一定の条件下で活用する必要がある」とした。
東芝は判定根拠となる信号や特徴も示す「説明性の高いAI」を開発している。
画像以外にも広がるAI
AI活用は画像認識にとどまらない。東芝は物体が壊れる際の微弱な弾性波を捉える「アコースティック・エミッション(AE)」技術を橋梁検査に活用している。
複数のセンサーに届く弾性波の時間差を分析する技術だが、ここでもAIを活用し、損傷位置の可視化などに役立てている。東芝によると、無線化などで現場作業量を有線方式より43%削減した。
超音波探傷では、検査データと取得位置を自動的にひも付けるシステムを開発している。「従来は検査位置を手書きし、データが何万件あっても人が読まなければ分からなかった。位置を自動記録できれば、設計情報と結び付けてAI分析に活用できる」と落合氏。損傷状況とデジタル設計図を結び付ければ、強度低下や余寿命、保守時期の判断にも活用できる。
熟練技能をAIで継承
東芝は今後、①信号や画像を分析する「データアナリティクスAI」②熟練者の知識や技能を引き継ぐAI③自律的に判断・行動し、人や機器と協働して業務を遂行する「フィジカルAI(エンボディドAI)」―の3つを軸に開発を進める。
検査にはセンサーの当て方や見る方向、信号の調整などのノウハウがある。落合氏は「熟練検査員の暗黙知だったが、労働人口の減少や高齢化に伴い、分かりやすい形で継承する必要がある」と主張する。
将来はAIがロボットアームを動かし、信号を分析してセンサーの位置や接触方法を自律的に変える姿を描く。
「現在は信号分析による異常判定が中心だが、今後は劣化診断、寿命推定、運転・保守の意思決定支援へ広げたい。設備の運転期間や稼働率、安全性を高め、資産価値向上にもつなげたい」
「合否の間」を捉える
落合氏は9月16~18日、東京ビッグサイト東1ホールで開かれる「JIMA2026 第13回総合検査機器展」(日本検査機器工業会主催、産経新聞社特別協力)について、「検査機器の高度化に加え、得たデータをどう生かすかが重要になる」と期待する。
「例えば橋梁。劣化は避けられず、少しずつ進む。劣化が10%、20%と進んだとき、どの段階までを合格とし、どこからを不合格とするのか。その線引きは単純ではない」。劣化の程度を把握できれば、運転条件を緩めて供用を続けたり、損傷が深刻になる前に補修したりする判断が可能になる。
落合氏は「検査の重要性は変わらないが、役割は広がる。合否判定にとどまらず、アセットマネジメントに役立つ技術が数多く紹介されればうれしい」と期待している。(高橋天地)
落合誠
おちあい・まこと 1965年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科計測工学専攻修了。1991年、東芝入社。2009年、東北大学大学院工学研究科で博士(工学)取得。電力・社会システム技術開発センター機械システム開発部長、企画・管理室長などを経て、2019年、東芝エネルギーシステムズのエネルギーシステム技術開発センター長。2022年、同社取締役、統括技師長兼エネルギーシステム技術開発センター長。2025年4月から東芝総合研究所所長。
第13回総合検査機器展(JIMA2026)
▷開催期間:16日(水)~18日(金)。午前10時から午後5時まで。▷場所:東京ビッグサイト東1ホール(東京都江東区)▷主催:日本検査機器工業会▷特別協力:産経新聞社▷同時開催展:INTERMEASURE、センサエキスポジャパン、地盤技術フォーラム、次世代森林産業展、知財・情報フェア&コンファレンス(本社主催・特別協力)
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