AIモデルのコモディティ化で富は開発企業から流通・決済システムへ移るという予測「The Commanding Heights」

AIモデルの性能向上と低価格化が進むにつれて、AIが生み出す富はモデルを開発する企業ではなく、AIを社会に普及させる流通網や決済システムなどを支配する企業に集中するという予測をまとめた論考「The Commanding Heights」が、2026年10月29日に公開されました。マニディス氏とロバーツ氏は過去の技術革新を例に挙げ、AI開発競争や米中関係、世界経済の今後の変化を分析しています。
The Commanding Heights
https://commanding-heights.com/
The Commanding Heightsは、起業家で投資家のウィル・マニディス氏とジョー・ロバーツ氏による論考です。タイトルの「Commanding Heights」は「経済の重要な部分を支配する拠点」を意味し、1922年にウラジーミル・レーニンが国家による主要産業の支配を説明する際に使った表現に由来します。
マニディス氏とロバーツ氏はAI時代のCommanding Heightsを「高度化し、広く普及するAIが生み出す利益を長期的に獲得できる、希少で支配可能な経済上の地位」と定義しています。具体的にはAIモデルそのものよりも、AIを利用者に届ける流通網や経済活動を支える金融インフラなどが重要になるという見方です。
この主張の背景にはAIモデルの「コモディティ化」があります。コモディティ化とは、かつては特別な価値を持っていた製品や技術が広く普及し、競合製品との差別化が難しくなることで価格競争が進む現象です。最先端のAIモデルを開発するには莫大な資金が必要ですが、その性能は数カ月遅れで登場する後発モデルにも取り込まれています。AIモデルの価格競争が進めば、最先端モデルの開発に成功しても優位性を長期間維持し、投資を回収することが難しくなります。

マニディス氏とロバーツ氏はAI開発競争の構造を過去の技術革新と比較しています。例えば、活版印刷技術を発展させたヨハネス・グーテンベルクは印刷革命の先駆者となったものの、自身は財政難に陥りました。鉄道の普及によって生まれた巨大な富も、機関車を発明した人々だけでなく、鉄道を利用して輸送や金融などの事業を展開した人々にも及びました。
「The Commanding Heights」ではこうした歴史を踏まえて、「AIでも技術を生み出した企業と、その技術によって生まれる経済的利益を獲得する企業は必ずしも一致しない」と指摘しています。
AI開発競争については、単なる企業間競争ではなくアメリカと中国による国家間競争になると予測しています。マニディス氏とロバーツ氏によれば、最先端AIモデルを継続的に開発できる国は最終的にアメリカと中国に絞られ、AIの開発能力が国家の安全保障や経済的な影響力を左右することになります。
金融・AI分野の専門家であるサイモン・テイラー氏は「The Commanding Heights」を紹介する2026年10月30日のXへの投稿で、アメリカが世界のAI計算資源の約70%を保有しているのに対し、中国は約5%にとどまるという数字を挙げています。テイラー氏は計算資源と資本の優位性によってアメリカが最先端AIの開発競争で有利な立場を維持し、米中間に冷戦に似た関係が生まれるという見通しを紹介しています。
— Simon Taylor (@sytaylor) 2026年10月30日The commanding heights - just read the whole thing.
Took me about an hour to read, is the talk of the AI and Wall St crowd and essentially argues.
- The US and China will be the two countries with AI, which creates a cold war condition.
- The US durable advantage is compute…
米中間のAI開発競争が激化すれば、AIモデルの開発企業は通常の民間企業とは異なる存在になります。マニディス氏とロバーツ氏はアメリカ政府がAI開発企業を国家戦略上の重要な資産とみなし、出資や特別な議決権などを通じて経営への影響力を強める可能性があると予測しています。
AI開発に必要な設備投資が増え続ければ、政府がAI産業を金融面から支援する必要性も高まるという見方もあります。テイラー氏はアメリカ政府がAIへの投資を維持するための後ろ盾となり、場合によってはアメリカ国債の利回りを抑えるような政策に踏み込む可能性まで「The Commanding Heights」で示されていると指摘しました。
AIモデルの開発とは別に重要になるのが、AIを実際の経済活動につなげる仕組みです。例えば優れたAIモデルが開発されても、企業の業務システムやスマートフォンのアプリケーションに組み込んで利用者に届けなければ経済的な価値は生まれません。マニディス氏とロバーツ氏はAIモデルの流通経路を支配する企業が、普及に伴って利益を得ると予測しています。

AIの普及によって企業の運営コストが下がれば、これまで採算が合わなかった事業も成立するようになります。経済活動の総量が拡大すれば、決済や取引などのインフラを提供する企業は個々の取引から得る利益が小さくても、取引量の増加によって収益を伸ばせると考えられています。
マニディス氏とロバーツ氏はAI時代の金融インフラの一例として、アメリカドルに価値を連動させたステーブルコインを挙げています。ステーブルコインはアメリカドルなどの法定通貨に価格を連動させることを目指した暗号資産です。論考ではAIによって国境を越えた経済活動が増えると、従来の銀行口座を持たない人々も含めてアメリカドル建てのデジタル決済を利用する機会が増えると予測しています。
「The Commanding Heights」ではアメリカドルを基盤とする新しいデジタル金融システムを「Neo-Dollar」と呼んでいます。マニディス氏とロバーツ氏は、中国が人民元の自由な交換を制限し続けることを前提に、中国製AIモデルを利用した経済活動であっても、最終的な決済にはアメリカドルが使われる可能性が高いと考えています。
アメリカドル連動型ステーブルコインの発行体が準備資産としてアメリカ国債を保有することで、世界各地でのステーブルコイン利用がアメリカ国債への需要を生み出す構造にも注目しています。マニディス氏とロバーツ氏は、AIの普及によってアメリカドルへの需要が増加すれば、アメリカが通貨価値を低下させながら財政支出を続けやすくなる可能性があると主張しています。
また、マニディス氏とロバーツ氏はAIによる経済成長の恩恵は、世界中に均等に行き渡るわけではないとも予測しており、AIによる業務の自動化が進むと、これまで先進国の企業から事務作業やソフトウェア開発などを受託してきた発展途上国の雇用が減少するとみています。これまで人件費の安さを強みにしてきた国々では、AIとの価格競争が難しくなり、経済成長の機会が失われる可能性があるというわけです。

マニディス氏とロバーツ氏はAIによる労働の代替が進むことで、AIを保有・活用する企業や資本家に富が集中し、労働によって収入を得る人々との経済格差が拡大すると考えています。特に発展途上国では、雇用の減少に加えて先進国への移住という選択肢も制限されることで、社会的な混乱が広がる可能性があると予測しています。
AIの普及によって企業の構造そのものも変わると予測されています。マニディス氏とロバーツ氏は、従来のように多数の従業員を雇用する企業ではなく、少数の人間がAIを管理しながら大規模な事業を運営する企業が増えていくと考えています。
テイラー氏は「The Commanding Heights」全体の結論について、AIモデルの開発企業は政府の支援を受ける公共インフラのような存在になり、現在のAI供給網で不足している設備や資源も、必ずしも長期的な利益の源泉にはならないと整理しています。AIが存在することで新たに成立する産業にこそ、大きな経済的価値が生まれるというわけです
マニディス氏とロバーツ氏も、一時的に不足している資源を所有することと長期的に利益を獲得できる「Commanding Heights」を支配することは異なると指摘しています。例えば、AI向けデータセンターの電力不足は発電設備や送電網の整備によって解消される可能性があります。両氏は経済活動の拡大とともに重要性が増し、継続的に利益を得られる仕組みを「Commanding Heights」と位置付けています。
なお、「The Commanding Heights」はAIモデルの性能向上と低価格化が続き、AIが経済全体に普及することを前提とした将来予測であり、米中のAI開発競争や政府によるAI企業への関与、ステーブルコインの普及、労働市場への影響などについては、不確実な要素も多く残されています。それでも、マニディス氏とロバーツ氏は「AI時代に最も大きな富を獲得するのは必ずしも最も優れたAIモデルを開発した企業ではない」と主張し、AIが社会に広く浸透したとき、流通網や金融インフラ、AIによって新たに生まれる産業の中で誰が長期的な経済的支配力を確立するのかが重要になるという見方を示しました。
KioskNews shows a cleaned-up reading view extracted from the publisher’s page — the original always lives on their site, not ours.