[ITmedia ビジネスオンライン] 「今のAIは100年前の飛行船」 元DeepMind研究者が脳から挑む“1500億円超”の賭け
今の生成AIは、100年前の飛行船のようなものだ――。
英Google DeepMindでAGI(汎用人工知能)の研究に携わり、2月に米非営利研究機関Astera Institute(アステラ・インスティテュート)のAI研究責任者に転じたディリープ・ジョージ(Dileep George)氏は、ポッドキャスト番組「Progress」でそう語った。
同氏がこの例えをDeepMindの最高経営責任者(CEO)、デミス・ハサビス(Demis Hassabis)氏に話したところ、返ってきたのは「なるほど、確かにそうだ。なら一番大きな飛行船を作りたい」という答えだったという。私的な会話だが、明かしても構わないだろうと前置きしての披露だった。
ジョージ氏は20年以上、脳の仕組みを手本にAIを作る道を追ってきた。2010年に米AIスタートアップのVicarious(ヴィカリアス)を共同創業し、2022年に同社が米Alphabetに買収されると、研究チームを率いてDeepMindに移った。
Asteraはこの研究に今後10年で10億ドル超(約1500億円以上)を投じる。飛行船ではなく、飛行機を作るための資金だ。
今の生成AIは、100年前の飛行船のようなものだ(以下写真提供:ゲッティイメージズ)
原理を解かず浮いた「飛行船」の限界
ちょうど100年前の航空の歴史で、ほぼ同じことが起きたとジョージ氏は言う。空を飛ぶ方法は2つあった。一つは鳥と同じように空気力学の原理を解き明かし、空気より重い機体を浮かせる道。もう一つは原理を解かずに、機体そのものを空気より軽くする道だ。
後者には、機体を大きくするほど性能が素直に伸びるという、現実の世界ではめったに見られない性質があった。あとは大きく作り続ければいい。1920年に「航空で最も有望な技術は何か」と尋ねれば、誰もが「もっと大きな気球」(飛行船)と答えただろうと同氏は語る。
今のAIに足りないもの 知能の本当の試験
1925年、米国はヘリウム法を制定し、当時ほぼ唯一の産出国だったヘリウムの輸出を止めた。自国の航空産業の優位を守るためだったとジョージ氏は説明し、こう続ける。「計算資源はAI時代のヘリウムだ」。今のAIの性能向上はほとんどが計算資源から生まれ、最も多く持つ者が勝つ。それが今の方程式だという。
空気力学を解かなくても空を飛べたように、知能の原理を全て解き明かさなくても、知的な振る舞いは作り出せる。この点で同氏は今のAIを認める。ただ当時も、空気力学に挑んだ少数派がいた。自転車屋のライト兄弟だ。周囲に無視されても別の道を進む人がいなければ、新しいものは生まれないと同氏は言う。
ジョージ氏が今のAIに足りないと見るのは「少ないデータで学ぶ力」と「経験から学ぶ力」だ。今のAIは学習に途方もない量のデータを必要とする。同氏は一つの思考実験を持ち出す。世界中の知識が消え、人類もなぜか全てを忘れてしまったとする。それでも人は世界の中で試行錯誤し、道具を作り、やがて文字や本、コンピュータまでを生み出し直すだろう。既存の知識を新しく組み合わせることではなく、知識を与えられないまま世界に出て、経験からそれを築き直せるか。それが知能の本当の試験だという。
これほど価値のある問題を、なぜ誰も解けていないのか。同氏の答えは「十分に良い」別の道が見つかったからだ。データを集めればよく、アルゴリズムはすでにある。深く考える必要はない。資本を集め、あとは同じ作業を回し続ければいい。米シリコンバレーが最も得意とするやり方だ。これだけ資金を投じればこれだけ性能が上がる、という見通しが立つ点は、半導体の性能向上を言い当てた「ムーアの法則」に似ている。組織も作りやすく、お金も使いやすい。
Google検索の全盛期には、わずかな改善でも莫大な利益を生むため、優秀な人材は検索エンジンの改良に集まった。だが、それでは次の非連続な変化を逃す。「AIは、Googleを揺るがす非連続な変化だ。今のAIを揺るがす次の変化は、脳から来るかもしれない。それが私の賭けだ」
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