10月1日の酒税改正でビール値下げ、新ジャンル値上げ どうする、家飲み派!?
10月1日、ビール系飲料の酒税が最終段階の見直しを迎える。ビールは安くなり、発泡酒と新ジャンル(第3のビール/発泡酒②)は値上がりする――ニュースでそう聞いても、実際どのくらい変わるのか、業界にとって何を意味するのかピンとこない人も多いはずだ。そこで、日本最大級の酒類小売チェーン「なんでも酒やカクヤス(以下、カクヤス)」に、価格の変化からメーカーの動き、消費者行動の見通しまでを聞いた。
最終年度を迎える酒税一本化
ひとまいる 執行役員 兼 グループマーケティング部 部長/カクヤス 執行役員 BtoCセールス事業部長 桑原翔太さん(左)と、カクヤス 商品部 部長 安村仁志さん(右)
ビール系飲料の酒税一本化に向けた改正は、2020年に始まり2023年、そして今回2026年10月で3段階目、最終年度を迎える。350ml換算で、ビールの税率は63.35円から54.25円へと9.10円の減税、発泡酒・新ジャンルは46.99円から54.25円へと7.26円の増税となり、双方の税率が同じ水準にそろう。
カクヤス本社至近の「なんでも酒やカクヤス王子店」
発泡酒と新ジャンルは増税となる
「税率が変わることで、ビール・発泡酒・新ジャンルと、お客さまの選ぶカテゴリーに変化が生じるのはもちろんですが、今回の改正により“値上がり”と感じられたお客さまが飲むのをやめてしまわないか、という不安があります。酒税改正により、お客様の振る舞いがどう変わっていくのかを興味深く注視しています」と話すのは、カクヤス 商品部部長の安村仁志さん。
実際、10円、20円という差でも「日々積み上がるとインパクトは大きい」というように、事実上の値上げとなる発泡酒や新ジャンルを飲んでいた人が、比較的安価なチューハイなどの別ジャンルに切り替えたり、飲む量を控える、といった心理変化は十分に起こりうるという。
カクヤスが実際に扱う価格を見ると、変化の実感はより具体的になる。350ml缶ベースでは、ビールが193円から184円へ、新ジャンルは160円から168円へと変わる。ケース単位で見ると差はさらに顕著で、ビールは4,544円から4,328円に値下がりする一方、新ジャンルは3,800円から3,992円へと値上がりする。発泡酒も162円が170円に、プレミアムビールは225円が216円に下がる。
「大雑把に言うと10円下がって10円上がる、というイメージです。1本単位で見ると体感の薄い変化かもしれませんが、発泡酒や新ジャンルをケース買いする層にとっては家計への影響が無視できない金額になります」(安村さん)
確かに、たかが10円、されど10円だ。毎日、それなりの本数を飲む愛飲家(愛飲家庭)にとっては年単位で換算すれば万単位の出費となる場合もあるだろう。節約のために新ジャンルを選択していた層にとっては懐が痛い話ではある。
カクヤス王子店に並ぶ新ジャンル。価格は9月18日時点
だからこそ「新ジャンルを愛飲してきた層への影響は読みにくい」と、同社のBtoCセールス事業部長の桑原翔太さんは語る。
「10円の値上がりで“もうやめてしまおう”という方が一定数出てくるリスクはもちろんあります。ビール系飲料の税制が変わるだけでなく、そのほかのほとんどの飲食料品が値上がりする物価高の現在、嗜好品であるビール系飲料が“節約”のやり玉に上げられてしまうかもしれません」(桑原さん)
カクヤスの実感――とはいえビール愛飲家にとっては追い風
しかし、ここで少し視点を変えてみたい。カクヤスの売上構成比は、ビールが約67%、新ジャンルが約19%、発泡酒が約14%と、圧倒的にビールが多い。もちろんビールの方が高価格だとはいえ、その比率はとても大きい。
「数量ベースで見てもビールが全体の6割ほどです。統計的にはもともとビールを好む方が多いという結果になるので、当社としては、酒税改正によりビールが安くなることを喜ぶお客さまのほうが多いのではないかと予想している部分もあります」(安村さん)
実は“ビール値下げ”の恩恵を受ける人のほうが多い可能性も。価格は9月18日時点
ビールメーカー各社が切磋琢磨して税金が安く低価格な新ジャンルを開発し、販促・ブランディングに努めてきたことは、大々的なテレビCMなどを見ても明らかだ。そして、実際に飲んでみても非常においしい。しかしながらカクヤスの販売実績を見る限り、ビールの方が断然売れているのだ。この事実は、多くの人が「やはりビールを飲みたい」と思っている現れといえるだろう。
「想定ではありますが、ビール党の中高年以上の世代には『本物のビール』という意識が強いのかもしれません。発泡酒や新ジャンルにはない、昔から慣れ親しんだビールのおいしさを求める層には、酒税改正で価格が下がることは大きなメリットといえるでしょう」(安村さん)
若年層は「カテゴリー」より「ブランド」で選ぶ
消費者全体で見ればビール愛飲家が多く、ビールの価格低下が需要を喚起する方向に進みそうに見える。しかし、興味深いのは、若年層(20〜30代前半)による受け止め方の違いだ。ビール、発泡酒、新ジャンルという分類を強く意識してきたミドル・シニア世代に対し、若い世代はそうした区分をほとんど認識していないという。
「今の若い方は、新ジャンルだから、発泡酒だから、ビールだからこれを選ぶ、という認識がほぼないらしいんです。このブランドが好きだから買う、味が好きだから買う、という選び方をされている」(安村さん)
発泡酒や新ジャンルが誕生する前からビールを嗜んでいた世代と、その後に成人を迎えた若年層では発泡酒・新ジャンルに持つイメージが異なると安村さん
そのため、価格差が縮まり新ジャンルが値上がりすることで「なんとなく値上がった」という印象だけが残り、若年層のアルコール離れをかえって加速させてしまうのではないか、という懸念もある。
「それが一番のリスクであることはビールメーカー各社も理解されていて、新ジャンルをどうリファイン(改良)するかが今後のポイントとなります。つまり、新ジャンルの“ビール化”ですね。新ジャンルが値上がるというよりも、ビールに格上げすることで価格は少し高くなったけれど、前より進化した、おいしくなったということを、各社の主力新ジャンルを好む人たちにアピールできるかが重要です」(桑原さん)
大手4社の一斉「ビール化」 味はどう変わるのか
今回の酒税改正にあわせ、大手4社はそろって主力の新ジャンルブランドをビールへと切り替える。
サントリーは「金麦」と「金麦〈糖質75%オフ〉」を10月6日にビール化して発売。麦芽比率を過去最大水準まで引き上げ、麦のうまみをしっかり感じる飲みごたえを目指す。あわせて、豊かな麦のうまみが特長の新ブランド「金麦〈豊潤〉」も10月13日に投入する。
キリンビールは「本麒麟」を11月4日にリニューアル発売。新ジャンルからビールへと製法を変更し、麦100%の生ビールへ進化させる。あわせてアルコール度数もこれまでの6%から5%に見直し、日々飲みやすいビールとしての設計に改める。
アサヒビールはクリアアサヒを「クリアアサヒ〈生〉」に改称し、10月27日に発売。麦芽比率を高め、注ぎたての生ビールに近い飲みごたえを追求する。
サッポロビールは「GOLD STAR」と「麦とホップ」をともに10月20日にビール化して発売。両ブランドは、ビールのなかでも手ごろな「エコノミー」カテゴリーの中心として位置づけられる(プレミアム・メインストリーム・エコノミーといった複数の価格帯で展開予定)。
左から、サントリー「金麦」、キリンビール「本麒麟」、アサヒビール「クリアアサヒ〈生〉」、サッポロビール「サッポロ GOLD STAR」
いずれも、ブランド名やこれまでのパッケージの世界観をできるだけ残しながら、中身だけをビールへと切り替えている点が共通している。桑原さんは発売前のビール化した各社の新製品を試飲したことがあるそうだ。
「今回のビール化により現行品と比較すると味わいの違い生まれるため、これまでの味を気に入っていた層に受け入れられるかは未知数だと感じました。しかし、見方を変えれば、よりおいしい方向に進化したともいえます。新ジャンルのビール化という流れで、自分の好きな味を再発見するのも楽しいと思います」(桑原さん)
桑原さんのお話を聞いていると、ビール化する新ジャンルを発売後すぐにでも試してみたくなる
ビール化する新ジャンルがある一方で、新ジャンルとして残るブランドもある。酒税改正は、ブランドごとの個性や立ち位置をあらためて見極めるきっかけになっているといえそうだ。
発泡酒は「機能性ビールテイスト飲料」へ
新ジャンルのビール化が、この秋のビール業界の注目の的となりそうだが、一方で話題になりにくいのが発泡酒だ。ビール化の動きもあまり聞こえてこない。その背景には、発泡酒がすでに糖質・プリン体・カロリーオフといった機能性を軸にポジションを確立していることがある。
「機能に対してお金を払っている、という側面が強いカテゴリーです。健康志向という文脈は今後も繰り返し出てくると思うので、そこに対応する商品として各社が育ててきたのではないでしょうか」(桑原さん)
発泡酒には「糖質オフ」などを特徴とする商品も多い。価格は9月18日時点
今後も発泡酒は、「糖質オフ」「低カロリー」といった機能性ビールテイスト飲料として独自の進化を遂げていくとみられる。そして、独自の進化ということではノンアルコール・低アルコール飲料も同様の道をたどることになりそうだ。
酒税の対象外であるノンアルコールビールは今回の改正でも価格は据え置きとなる見込みで、新ジャンルや発泡酒との価格差は広がる。その安さと「意外とおいしい」ことが、ビール系飲料への入り口となりうる。桑原さんも「普段、アルコールを嗜まない若年層の選択肢のひとつになる」と期待しているポイントだ。
「さらにノンアルコールビールを飲む人のほうが、アルコール類全体の消費量が多いというデータもあります。毎日飲むより、休肝日をノンアルで挟んだほうが、結果的に長く飲み続けられ、消費金額も大きくなる傾向があるようです」(桑原さん)
健康のためにノンアルを挟むスタイルが、結果的にビール系飲料市場全体を底上げする可能性がある、という見方だ。
酒税改正がもたらす業界へのプラス
これまで各メーカーは、税率の低い新ジャンルで、いかに「ビールらしい」味わいをつくるかに開発力を注いできた。しかし、酒税という制約が薄れることで、そのリソースが本来のビール開発や機能性による差別化へと向かう可能性がある。
「ビールメーカー各社は、税率という枠の中で品質と価格のバランスを工夫してきた部分が大きかったと思います。それが今回、価格よりもクオリティや差別化、どんな価値を提供するかという方向にベクトルが変わってくる。業界としてはよい流れになるのではないかと期待しています」(桑原さん)
ただし、酒税法改正によって消費者がどう動くかは、9月末までの駆け込み需要が落ち着き、各社の新ジャンルブランドのビール化商品が出揃ってからでないとわからないというのがカクヤスの見立てだ。それでも、多くのビール愛飲家にとっては歓迎すべきビール価格低下であり、新ジャンル愛飲家にとってはビール化による新しい味わいとの出会いが待っている。ビール業界の新たな扉が開くといっても過言ではないだろう。
「ビールの値下げと新ジャンルのビール化、機能性ビール(発泡酒)の可能性と、ビール系飲料全体が盛り上がることで、アルコール離れといわれる若い世代にも興味を持ってもらえたらいいですね。酒税改正が結果として『お酒を楽しむ人を増やす』ことにつながるのであれば、私たちとしては嬉しい限りです」(安村さん)
10月からの新しい価格と新商品ラッシュは、ビール業界にとって、そして日々の晩酌を楽しむ愛飲家にとっても、しばらく目が離せないトピックになりそうだ。
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