「AIによるAI開発」へ加速 ELYZAがRSI(再帰的自己改善)に向け新体制
AI開発において「RSI」が注目されている。
「RSI」は、Recursive Self-Improvement(再帰的自己改善)の略語で、AIが自身の能力や開発プロセスを反復的に改善し、その成果を次の開発に活用するという仕組み。2026年の前半から、AIの開発・改善の一部をAIが担うようになっており、結果としてAnthropicやOpenAIなどのフロンティアモデル開発も加速している。RSIが実現されれば、AIが自分自身を改善するループが加わり、AIが主導的に開発を行なう体制が構築されると見られる。
KDDIグループで、大規模言語モデル(LLM)開発やAIサービスを展開するELYZA(イライザ)は2日、RSIに関連する研究開発を推進する組織「ELYZA RSI Research」を設立するとともに、AIによるAI開発の研究を加速する。あわせて、研究を通じて構築した「自律研究基盤」を活用し、バーティカルAI事業展開につなげていく。
ELYZAは、生成AIの中核技術となるLLM開発に強みを持つほか、研究開発や社会実装の取り組みを進めている。KDDIのほか、三井住友カード、東京海上日動、明治安田生命など、50社以上にAIを活用したソリューションを提供。また、AIを活用した法人向けの業務ツール「ELYZA Works」なども展開している。
一方、現在のフロンティアモデル開発では、AI開発・改善プロセスの一部をAI自身が担う「AIによるAI開発」が進んでおり、結果として研究開発の効率化や開発サイクルの高速化に繋がっている。さらに、RSIが実現されるとこの流れは加速し、開発が高速化するが、リスクの拡大も見込まれる。そのため開発の加速とともに、安全性に配慮した研究開発も必要となる。
こうした課題の解決に向け、ELYZAでは専門組織であるELYZA RSI Researchを立ち上げる。
ELYZAの曽根岡 侑也代表取締役は、LLM開発はシンプルなタスクにおいては、2024年時点で差がつかない状態になっているとする。2026年9月時点のAI研究の主戦場は、創薬・材料・数学などの科学研究にAIを活用し、新たな知識や候補の発見を加速する「AI for Science」や、人間なら数時間から数日かかる複雑な工程のタスクをAIが完遂する能力を扱う「Long Horizonタスク」などに移っている。
ELYZA 曽根岡侑也 代表取締役
高度な推論や、数学・論理、コーディング、実務、信頼性など多くのベンチマークにおいて改善が見られており、主要モデルでは博士レベルの思考力や実務での自律的な完遂力が主な論点となっている。例えば、高難易度の専門的な問題を対象としたベンチマーク「Humanity's Last Exam」のスコアは、1年前は30%台が最高だったが、26年9月時点では68.4%(Claude Opus 5.5)など大きな進歩を見せている。
また、OpenAIが約90年未解決だった数学の難問を解決したことも報告されているが、ここにも10,000以上のAIエージェントの大規模な自律的・並行探索、Leanを用いた証明の厳密な検証などが行なわれ、AI for ScienceとLong Horizonタスクの代表的な事例となっている。
9月に登場したGPT-6 Astraも推論能力の向上とともにPC操作など「仕事を進める」能力を強化している。
一方開発の現場では、「AIによるAI開発」が本格化している。
AIエージェント開発においては、「基盤モデル」、それを統合し管理・稼働する「ハーネス」、そして「評価機構」の3つの要素が必要で、これまでは人間のAIリサーチャーが統括し、「改善ループ」を回してきた。
しかし、2026年初頭からは、リサーチャーの役割をAIエージェントが補完・代替するケースが増えており、これが結果としてOpenAIやAnthropicなどのフロンティアモデル開発の高速化とリリース頻度向上に繋がっている。25年までは3カ月毎のリリースだったが、いまでは毎月モデルが更新されるなど進化が加速している。
AIによる開発でフロンティアモデルのリリース頻度が向上
AIの進化の速度に、社会システム等の対応が追いつかず、「サイバー防御」や「安全性」への議論が高まっているのも、こうした開発速度の加速も一因となっている。ただし、それでも現在はまだ「AIによるAI開発」の段階となっている。
RSIが実現されると、人間のAIリサーチャーが「自律改善エージェント」に置き換わり、改善成果を自身に反映させ、自己改善する「ループ」が生まれる。ループ自体を回す主体が、人間からAIに移行することで、さらに性能向上の加速が見込まれるという。
今後もAIモデルの開発加速が見込まれる中、曽根岡氏は今後起きうるリスクとして、「最新のフロンティアモデルが一般公開されなくなる」と指摘する。すでにClaude Mythosで起きたことだが、高すぎる能力ゆえのリスク管理や規制の動きにより一般利用が制限され、それらが日本国内でのAI研究・開発の障害となる可能性がある。
日本において、AIによるAI開発の研究を、安全性に配慮しながら推進する体制を構築していくことが必要で、その一端を担うものが「ELYZA RSI Research」とする。
RSI(再帰的自己改善)へのアプローチ
AIによるAI開発についてELYZAにおける位置づけは、人間を前提とした「Step 1」、人間が目的・方針を決め改善案を決める「Human in the loop」がStep 2、人間は変更などは確認しないが成果物を確認する「Step 3」、そして人間が介在しないClosed Loopが「Step 4」となり、RSIはこのStep 4に該当する。
ELYZAでは現状、LLM、ハーネス、評価機構の3点において、開発をすすめているが、基盤モデルにおいてはStep 1、ハーネスは全自動でStep 3、評価機構は半自動のStep 2となっている。これをより進んだステップにつなげていくのが「ELYZA RSI Research」の取り組みといえる。
LLM開発においては、国立情報学研究所(LLM-jp)のモデル「LLM-jp-4」に、ELYZAが整備したLLM学習基盤を適用したところ、大幅な性能向上を確認。人間が介在する作業を1~2人日の工数に抑えながらMid-training、Post-trainingから評価までの一連のプロセスを実行し、高い成果に繋がったという。
評価機構の例では、問い合わせ応答ベンチマークを半自動で作成。音声対話/テキストの双方に対応したカスタマーセンターの問い合わせ対応を「適切な業務手順を選んだか」「業務手順通りの振る舞いか」「ツール利用は正しいか」「最終状態は正しいか」の4つの中間工程ごとに能力を測れるベンチマークを半自動で構築した。このベンチマークは、「ELYZA Agent Tasks: Customer Service」として公開する。
また、独自の自律改善エージェントを用いたハーネスの自動改善では、開発系ベンチマークにおいてAIエージェントの性能が大幅に向上。精度改善と推論コスト削減を実現できたという。
ELYZA RSI Research_自律改善エージェントによる精度とコスト改善
ELYZAでは、これらの成果を元に、基盤モデル・ハーネス・評価機構の自律改善の研究成果を統合した「自律研究基盤」を整備していく。
領域AIエージェント
構築した自律研究基盤や各領域の知見を元に評価機構を構築。ELYZAでは、各業界・業務に適したAIソリューションを提供しているが、領域特有の課題や知見を自律研究基盤と連携し、領域特化AIエージェントを開発する。
第1弾として音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」を開発し、一部パートナーに提供する。
これまでELYZAがコンタクトセンター向けに提供してきたAIエージェントは、サポートの会話までを担ってきた。新エージェントではその先の業務や手続きも支援。予約の変更や契約更新、申請の受付など、実際の業務システムと連携した手続きやその処理結果の確認までを一貫して支援するよう設計している。
これらは、同社のコンタクトセンター業務におけるシステム開発・導入知見を活かしたもので、すでに一部のパートナーと協力しながら、業務システムとの連携などを確認している。今後は医療・製造業などパートナーとともに対応できる領域を拡大していき、領域特化エージェントの開発・展開を目指す。
ELYZA Voice Agent
また、AIによるAI開発は、デジタル空間だけでなく「物理空間」へ拡張可能とし、フィジカルAI展開でも、RSIの成果となる自律研究基盤が有効であると説明。KDDIと連携し、小売・物流向けロボット基盤モデルの研究開発も進めていく。
現時点で、ELYZA自身がRSIを実現したわけではないが、そこを見据えた研究開発体制を構築するとともに、社会実装に向けた準備を進める。一方で、「安全性も重要な研究課題のひとつ」(曽根岡氏)とし、研究成果や取り組みについての適切な情報公開も行なっていくとした。
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