手厚い社会福祉制度は国民の寿命を延ばすのか?
「政府は国民生活を支援するためにどれほど介入するべきなのか」「福祉制度は国民生活にどれほど影響するのか」といった疑問は、近年の政治における重要な論点となっています。学術誌のSocial Indicators Researchに掲載された論文では、さまざまな発展段階にある国々を比較して、福祉制度と国民の寿命との関連性が調査されました。
From the Cradle to the Grave? Welfare Regimes and the Quantity of Life: Global Trends and Cross-National Evidence | Social Indicators Research | Springer Nature Link
https://link.springer.com/article/10.1007/s11205-026-03912-x
How social safety nets are linked to longer lives globally
https://www.scienceofmoney.org/how-social-safety-nets-are-linked-to-longer-lives-globally-1291/
社会学者や政策研究者は長年にわたり、人々のセーフティーネットとなる福祉制度の充実度が、人々の主観的な幸福感や生活満足度に与える影響を調べてきました。しかし、これらの研究には「すでに裕福な経済協力開発機構(OECD)が中心となっている」「客観的な健康状態ではなく主観的な感情に焦点を当てている」といった問題がありました。
そこでオックスフォード大学やテキサスA&M大学などの研究チームは、低所得国家から高所得国家まで幅広い国々を対象に、各国の福祉制度の充実度が人々の寿命や健康指標とどのように関連しているのかを調査しました。
研究チームは福祉政策が貧困を削減し、教育や医療資源へのアクセスを拡大すると主張しています。こうした変化は住人の慢性的な心理的・身体的ストレスを軽減するのに役立ち、健康状態の向上や寿命の延長につながる可能性があるとのこと。
各国の福祉制度の充実度は、ベルテルスマン財団が発表しているTransformation Indexという指標で測定されました。Transformation Indexは社会保障制度の充実度や機会均等、社会経済的リスクを軽減するための制度的能力などに基づき、各国を「1~10」までの尺度でスコア付けしたものです。スコアが高いほど福祉制度が充実していることを意味します。
研究チームは2006~2022年のTransformation Indexのスコアと、国民の「出生時の平均余命」「健康に生きられると期待できる年数」「妊産婦死亡率」といった健康指標を比較。さらに人口における死亡年齢の差を測定し、平均余命の不平等がどれほど深刻なのかについても調査しました。
以下の図は、調査機関中におけるTransformation Indexの平均スコアを国別に表したもので、黄色に近いほどスコアが低く、濃い紫色になるほどスコアが高いことを意味しています。データが利用できない国は灰色で示されています。
1人あたりの国内総生産(GDP)や失業率、人口規模に占める公衆衛生支出、労働年齢人口の比率といった要因を考慮して分析したところ、「より手厚い福祉制度があることは平均余命の延長と関連している」という一貫した関連性が確認されました。
この関連性は、男女に分けて平均余命を別々に比較した場合でも当てはまりました。また、社会保障制度が充実しているほど平均余命の格差が小さくなり、同じ社会に生きる人々の寿命の差が縮小することもわかっています。妊産婦死亡率への影響も顕著で、複数の国を統合したモデルではTransformation Indexのスコアが「1ポイント」上昇すると、妊産婦死亡率が約17%減少することが示されました。
さらに研究チームは、2006~2022年にかけてTransformation Indexのスコアが大きく変動した国に着目しています。調査期間中にスコアが「2ポイント」以上高くなったアルジェリア・アンゴラ・ブータン・ケニア・リベリア・ウガンダの6カ国では、いずれもスコア上昇に伴って平均余命と健康寿命が延びました。たとえばアンゴラでは平均余命が22年以上増えており、これらの国々では妊産婦死亡率や平均余命の格差も著しく改善したとのことです。
一方、Transformation Indexのスコアが調査期間中に「4.5ポイント」も低下したリビアでは、健康寿命の短縮や妊産婦死亡率の上昇、平均余命の格差増大といった現象が確認されています。しかし、福祉制度の衰退が必ずしも即時的な効果を引き起こすとは限らず、同時期にスコアが「3.5ポイント」も低下したシリアでは、平均余命と妊産婦死亡率がわずかに改善しました。
研究チームは、今回の研究結果は因果関係を証明するものではなく、あくまで「福祉制度の充実度」と「国民の健康状態や寿命」の関連性を示したものに過ぎません。また、分析ではさまざまな要因を考慮したものの、考慮しきれなかったその国特有の社会的・政治的要因が影響している可能性もあるとのことです。
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