[ITmedia エグゼクティブ] 「知財戦略で世界をリード」技術は秘匿と標準化の両輪 日本特許情報機構・近藤賢二理事長
インタビューに応じる日本特許情報機構の近藤賢二理事長=8月14日、東京都江東区(川口良介撮影)
一般財団法人「日本特許情報機構(JAPIO)」(東京都江東区)の近藤賢二理事長(72)は、日本企業が技術開発で先行しながら、量産化や市場化の段階では海外勢に利益を奪われてきた状況を憂慮する。経営者や知財担当者には「特許・意匠・商標による保護とコア技術の秘匿を使い分け、同時に周辺技術の標準化を進めて市場の主導権を握る戦略が重要だ」と訴えた。さらに「知的財産に加えて国際標準化を進める広い意味の知的財産戦略をもって世界をリードしていくことが必要」とも強調。人工知能(AI)の活用が進み、企業の競争環境が激変する中「知財情報を経営判断に使える形で提供することにも注力したい」と語った。
自身も特許取得「稼いでくれています」
「私も1つ特許を持っていましてね」。近藤理事長は自身の名が記された特許証の縮小コピーを取り出した。丁寧にラミネートされている。発明は電力市場に影響する複数の要素から将来の電力価格を予測する仕組みだ。
民間企業を退任してから近藤理事長が旧友数人と共同出願。特許取得後は、小規模事業者に営業を委ね、新興電力会社などに提供した。「特許はちゃんと稼いでくれています」
制度作りや企業知財を担い、さらに発明者としても出願、権利化、事業化まで手がけた。ラミネートされた特許証は知財を利益に変えた体験の証しだ。
「負け続ける日本」を嚙み締め
近藤理事長は旧通産省で特許庁や知財政策部門に勤務し、民間企業では知財、研究開発、技術の国際標準化に携わった。繰り返し語ったのは「日本企業が技術で最先端を走りながら、量産化や市場化で負け続けてきた」という歯がゆさだ。
必要なのは特許件数の増加ではない。「経営戦略の中で全体を分析し『この辺は薄い』『ここは米中がいない』という部分を見つけて知財を取る。肝の部分はしっかり隠す。技術の標準化によって世界のルールを作り、その中でビジネスする。そこまでやらないと勝てません」
公開特許情報から競合の研究開発や事業の方向を読み、経営判断に生かす。特許庁が推進するIPランドスケープや、分析結果を意思決定につなげるIPインテリジェンスと同じ考え方だ。
中小企業には、特許を取らない選択肢もある。近藤理事長は、大型水族館向けの巨大アクリルパネルを製造する香川県の中小企業の具体的な例を挙げた。同社は接合方法など独自技術の核心を特許にせず、社内に秘匿しているという。
「特許で守るのではなく、人と技術を社内に抱え込む。だから技術が流出しない。中小企業は、特許を取るもよし、取らないもよしです。特許を取るのも取らないのも企業の経営判断なんです」
AIで「流れの向きが変わった」
近藤理事長はAIの進展に時代の変化を感じている。「流れの向きが変わった気がします。突然、一段階変わった」。一方で何もかもAIに置き換わるとは考えていない。
「AIを正しく使い、人間の新しい考え方や発明も生かす。両者をどう組み合わせて社会を作るかが大きな問題だ」
JAPIOでも、AIを活用した次世代サービスの開発を進める。「AIの問題はわが身のこととして引き続き真剣に勉強したい。その上で民間に活用してもらえるサービスを提供していきたい」と語った。
「知財って、実に面白いんですよ」
9月16日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開幕する「第35回知財・情報フェア&コンファレンス2026」(18日まで。主催・発明推進協会、JAPIO、産経新聞社)では、JAPIO自身もブースを設け、9月リリースの新サービス「商標スキャナー」をはじめ、民間向けの各種サービスを展示する。
近藤理事長は「トップマネジメントまで含め、知財とは何かを理解してもらう。若い人にも『面白そうだな』と思ってもらいたい。みんなが『知財は大事なんだな』と思えるPRや啓発をしたい。知財ってね、実は、そして実に面白いんですよ」と声を弾ませた。(高橋天地)
近藤賢二
こんどう・けんじ 1954年、山口県生まれ。東大卒。1978年、通商産業省(現経済産業省)入省。商務情報政策局長や内閣官房(官邸)内閣審議官、知的財産戦略推進事務局長などを歴任。2016年、三菱電機専務執行役開発本部長(CTO、CIO)。2019年、特別民間法人高圧ガス保安協会会長。2025年10月から一般財団法人日本特許情報機構理事長。趣味はプロ野球観戦。岡山県育ちの大の阪神タイガースファン。
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