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Wednesday, October 14, 2026

[ITmedia エグゼクティブ] 大阪ガス、AI開発基盤の内製で期間を最大6割削減 コード生成の先にある壁とは

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著者 京部康男 京部康男

[ITmedia]

(左から)大阪ガス株式会社 DX企画部の岡村智仁氏(ビジネスアナリシスセンター所長)、高木大輝氏、藤原孝浩氏(係長)、國政秀太郎氏、長瀬柊哉氏(後者4名はAI推進チーム兼ビジネスアナリシスセンター所属)

 AIがコードを書けるようになっても、それが業務で使い続けられるシステムになるとは限らない。テストの実施、セキュリティの確保、大量データの処理、長期間の安定稼働――商用システムに求められる工程は、コード生成のあとに山ほど残る。

 大阪ガスが構築したAI駆動開発基盤「WAAAP(Whole AI Agentic Automated Platform=ワープ)」は、この“あと工程”までを含めて、企画から運用までを1つの流れでAIが支える基盤だ。ユーザー企業が自ら作った点でも珍しい。

 同社は、外部委託による従来型の開発と比べて期間を最大で約6割、費用を最大で約7割削減したとしている。何をどう変えた基盤なのかを整理する。

コード生成の先にある壁――WAAAPが組み替えた開発プロセス

 大阪ガスがWAAAPの構築を発表したのは2026年6月15日。AI支援機能の一部にはGoogle Cloudの企業向けAI基盤サービス「Gemini Enterprise」を使い、構築にあたってはGoogle Cloudのテクニカルアカウントマネジメント(TAM)サービスによる技術支援を受けている。

 この基盤は、突然現れたものではない。同社は1990年代後半にデータ分析の専門組織を立ち上げ、2010年には全社データ活用基盤「DUSH(Data Utilization Support & Help)」を稼働させ、2014年にはJDMCのデータマネジメント賞で大賞を受けている。分析基盤、データ基盤ときて、次に作ったのが開発基盤だった、という順番になる。

 AIによるコード生成は、すでに多くの企業に広がった。それでも現場では、試作品までは作れるのに、業務の中で使い続けられる形にまで持っていけないケースが少なくない。

 壁は工程の後半にある。プログラムを書き終えたあとにも、テスト、運用準備、既存システムとの接続が残る。とりわけ現場ごとの業務ルールや運用条件に合わせる調整には、時間も手間もかかる。汎用的な自動化が効きにくい領域だからだ。

 外部委託にすると、別の問題も重なる。修正や改善のたびにやり取りが発生して時間を要し、知見が社内に残りにくい。「作ること」はできても「使い続けられる形にすること」が難しい、というのが大阪ガスの見立てだった。WAAAPは、その前提に立って開発プロセスそのものを組み替えた基盤だといえる。

期間最大6割削減――全工程AI支援と本番直結の「EnergyBrain」

 WAAAPの特長は大きく3つに整理されている。

 1つ目は、企画段階の要件整理から実装、テスト、リリース、運用までをAIで支援すること。一般的なAI開発支援ツールがコード作成など一部の工程に寄っているのに対し、テストやリリースといった、汎用的な自動化が難しい領域まで踏み込んでいる。開発プロセス全体の期間を最大で約6割、費用を最大で約7割削減できたという数字は、この“全工程”という設計から出てきたものだ。

 2つ目は、スピードと品質・安全性の両立である。プログラムに変更を加えるたびにテスト・検査・本番反映までを自動で回すCI/CD(Continuous Integration/Continuous Delivery:継続的インテグレーション/継続的デリバリー)を組み込む一方、各工程の間に「品質ゲート」を置き、基準を満たさなければ先に進めない構造にした。過去のプロジェクトで得た設計ノウハウや開発手順を社内共通の資産として蓄積・再利用することで、担当者に依存しない品質を狙っている。

 3つ目は、本番環境に直結していること。IoTデータのリアルタイム処理や大量データの分析に対応するクラウド環境を備え、開発したシステムをそのまま本番で動かせる。稼働後もAIが状態を常時監視し、異常の検知から原因の特定、修正案の提示までを自動で行う。

 その本番直結を示す代表例が、遠隔AIエネルギーマネジメントシステム「EnergyBrain」である。気象データや運転実績からAIがエネルギー需要を予測し、顧客設備の最適な運転計画の策定と制御を自動で行う。

 給湯器やエネファームといったIoT機器から集まる大容量のリアルタイムデータが処理の対象になる。家庭用のエネファームであれば、急な使用量の増減もリアルタイムでデータを補正しながら、1分単位で最適な運転計画を計算して制御するという。顧客特性に応じた機械学習モデルの作成と、多様な設備への対応を短期間で実現したと同社は説明している。

 エネルギー分野にとどまらず、食品や樹脂などの製造工程で水分量などを推定する成分推定AIの開発にもWAAAPを使っている。今後は製造・設備の監視、顧客接点、契約管理などのバックオフィス業務、保守・点検といった現場対応へ広げる方針で、既存システムの刷新や業務プロセスの自動化にも適用するとしている。現時点ではDaigasグループ内での活用を進め、実績を積んだうえで将来的な外部展開を検討する段階だ。

 名前の付け方にも、この基盤で何を実現したいかが表れている。社外への発信も見据えて検討した際、社内で300~400個ほどの案を出したという。

 「アイデアが出たら、明日には動くものができている。思考から実装まで文字通りワープするような世界観を実現したい、という思いを込めています」(長瀬氏)

 開発の速さそのものより、思いついてから形になるまでの距離を縮めることに主眼が置かれている。この狙いは、現場での使われ方ともつながっている。

ガス工事の担当者がアプリで1位――現場まで開いた市民開発

 WAAAPは、グループ内のシステム開発とAI活用に広く使える開発基盤として展開されている。専門の開発チームだけの道具にはしていない。

 大阪ガスは社内AIコンテスト「D-1グランプリ」を開いており、現場のエンジニアやガス工事の担当者が生成AIで業務改善アプリを自分で作って1位になる、という事例が出てきている。現場作業の動画を撮るとAIが自動でマニュアル化するアプリを、現場社員が自発的に作った例もあるという。

 「各部署に数名はいる“新しいもの好き”な社員がキーマンになって、活用が広がっています」(國政氏)

 市民開発の裾野を広げる取り組みは多くの企業が試みているが、試作で止まりやすい。作ったものを本番で動かすところまで同じ基盤で受け止められるかどうかが、ここでの分かれ目になる。

「免許を持った人が運転する」――学習ロードマップで効かせるガバナンス

 裾野を広げれば、当然ながら統制の問題が出てくる。大阪ガスは推進と管理の両輪で設計している。

 DUSHの時代からTableauなどの講習会や統計の基礎教育を続け、累計で1000名近い社員が受講してきた。AI活用については、開発基盤を使うにあたって「ここまで理解していないと使えない」という学習ロードマップを用意している。

 「車でいえば、免許を持った人が運転するという形でガバナンスを効かせています。必要なコンテンツをクリアすると機能のロックが解除されて、実際にアプリ開発ができるようになる。ゲーム感覚の仕組みも取り入れました」(髙木氏)

 利用申請と承認で縛るのではなく、理解度に応じて使える機能を段階的に開いていく。禁止ではなく前提条件で統制する設計だとみることができる。

基盤の次は、データの意味をAIが読める形にすること

 基盤が整うと、次の課題は基盤の上に載るものに移る。大阪ガスがいま向き合っているのは、データの意味づけだ。

(左から)大阪ガス DX企画部の長瀬柊哉氏、國政秀太郎氏、岡村智仁氏、高木大輝氏、藤原孝浩氏

暗黙知をメタデータへ――陳腐化にAI自身で対抗する

 「このデータが具体的に何を意味し、どの業務でどう使えるか。そのナレッジやメタデータが、まだ十分に構造化できていません。ベテラン社員等が培ってきたノウハウや暗黙知をいかに形式知にして、AIが読み取れる形に組み込んでいくかが、AI時代の新しいデータマネジメントの鍵になると考えています」(岡村氏)

 データの意味やナレッジは時代とともに陳腐化する。そこでAI自身を使い、業務システムの設計書からメタデータを自動生成・維持する仕組みづくりも検討しているという。

 「データマネジメントとAI活用は表裏一体です。全社員が意識しなくても正しいデータと知見が巡り、AIが業務を高度に支援できる環境を目指しています」(藤原氏)

 AI駆動開発基盤という言葉は、開発の話に聞こえる。だが大阪ガスの歩みを1990年代後半の分析組織から順にたどると、DUSHでデータを集め、WAAAPで作る速さを手に入れ、次にデータの意味を整えるという順序が見えてくる。自社に置き換えるなら、どの段階にいて、次に何を整えるべきかを問う材料になりそうだ。

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