ディープウォーター・ホライズン原油流出事故から16年が経過してもメキシコ湾の深海生物は約6割減ったまま回復していない実態が明らかに
2010年4月20日、メキシコ湾で稼働していた石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」で爆発事故が起き、水深約1500mの海底油井から原油が流れ出しました。流出は2010年7月15日までの87日間続き、流出量は400万~490万バレルと推定されています。事故への対応として、原油を細かな粒に分散させる薬剤も海中に注入されました。
ノバ・サウスイースタン大学ガイ・ハーベイ海洋研究センターのトレーシー・サットン教授らの研究チームは、メキシコ湾の北部と東部で、海面から水深1500mまでの海中を泳ぐ魚類やエビ類、イカ・タコ類を調べました。これらの生物の多くは夜になると海面近くまで上がって餌を食べ、日中は深い海へ戻ります。また、マグロやクジラ、海鳥などの重要な餌にもなっています。
研究チームは、2011年1~9月の調査と2015~2023年に実施した9回の調査で得た個体数のデータを比較しました。昼夜で生物の泳ぐ深さが変わることを踏まえ、採集は昼と夜の両方で行い、使う網や手順もそろえています。採れた生物の数を網が通過した海水の体積で割って、同じ量の海水にどれだけの生物がいたかを比較できるようにしました。さらに、船から海中へ音波を送り、生物に当たって返ってくる音波の強さも調べています。
2011年と2015~2023年のデータを比べたところ、海水の単位体積当たりの個体数は魚類で63.5%、大型甲殻類で62.0%、小型のイカ・タコ類で59.7%減少していました。個体数は2011年から2015年にかけての約3年半で急減し、その後も2011年初めの水準を下回ったままだったとのことです。
以下のグラフは魚類や甲殻類、イカ・タコ類の個体数の推移を示したもの。グラフの横軸は調査年月、縦軸は海水10万立方メートル当たりの個体数で、青色が魚類、オレンジ色が甲殻類、緑色がイカ・タコ類を表しています。2023年には魚類やイカ・タコ類で増加も見られますが、2011年初めと比べると少ないままです。
また、個体数の減少は音波による観測でも裏付けられました。2015~2023年は2011年に比べて生物から返ってくる音波が弱く、網による採集と同じく生物の減少を示したとのことです。
研究チームは調査で確認した生物の生息密度を、1980~1990年代にメキシコ湾東部で行われた調査の結果と照らし合わせました。その結果、当時の主要な生物群の生息密度は2011年の値に近かったため、2011年だけ一時的に生物が多かったのではなく、2015年以降に個体数が通常の水準から落ち込んだと判断しています。
個体数が減った原因を探るため、研究チームは水温の上昇や酸素不足、餌の減少といった原因を検討しましたが、水温の上昇や酸素不足は確認されませんでした。餌となる小型の動物プランクトンにも、魚類などと同じ時期の減少は確認されなかったとのことです。
研究チームは、採集方法の違いやこうした自然要因では個体数の急減を説明できないため、原油流出事故と事故後の油処理作業が最も有力な原因だとみています。ただし、今回の研究で事故と個体数減少の因果関係を直接証明したわけではありません。
過去の研究では、「事故から少なくとも6年が経過した時点でも深海魚の卵やイカ・タコ類の組織から原油に由来する多環芳香族炭化水素(PAH)が高濃度で検出された」と報告されています。研究チームは、こうした汚染によって深海生物が死んだり、発育に異常が生じたりする可能性を指摘しました。さらに、原油の残留物が深海魚の嗅覚を妨げ、暗い海中で繁殖相手を見つけにくくしている可能性も挙げています。
また、個体数が減るほど繁殖相手と出会いにくくなり、さらに個体数が増えにくくなる「アリー効果」が個体数の回復を妨げているという可能性や、メキシコ湾の深海では生物の個体数が少ない状態が定着してしまった可能性があると研究チームは説明しています。個体数の回復に必要な期間は分からず、減少前の水準まで回復できるかどうかも不明だと研究チームは結論付けました。
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