AIにより変化しつつある「IT覇権企業」 「GAFAM」から「AGNO」に
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GAFAMからAGNOへと覇権企業の枠組みが変わりつつある
7月に来日したNVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、同社の顧客やパートナーのエグゼクティブなどを招待したレセプションで「AIは全てを変えている。すでにソフトウェア産業の形を変えており、今後はそれが他の産業にも波及していく」とのべ、日本の産業界に対してAIがすべての産業の形を変えていくため、早期に自社製品にAIを採用することを呼びかけた。
実際、フアン氏の言うとおり、すでにソフトウェア産業はある種の「リセット」がおきており、覇権企業群が、これまでの「GAFAM(Google=現Alphabet、Apple、Facebook=現Meta、Amazon、Microsoft)」から、「AGNO」に変わりつつある。
では「AGNO」へと至る変化はなんだろうか?
IT業界を支配してきた覇権企業の枠組みは長らく「GAFAM」(ガーファムと呼ぶのが一般的)の言葉で示されてきた。GAFAMとはGoogle(Alphabet)、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoftの5社の頭文字をとったもので、この5社がいわゆるプラットフォーマー(エコシステムと呼ばれるその企業が展開する基盤にぶら下がる企業などに支配的な力をもっている会社のこと)として、IT業界の動向を左右するとされてきた。
だが、今その枠組みが変わろうとしている。そのことを端的に指摘したのは、だれもが認めるAI半導体の覇者であるNVIDIAのCEO ジェンスン・フアン氏の言葉だ。
フアン氏は7月の来日で、セガとの長年のパートナーシップを記念した秋葉原でのイベント、経済産業省のイベント、富士通の記者会見などに参加した他、同社が東京で開催したエージェント型AIに関するイベントなどで来場者の前で講演した。経済産業省のイベントでは、フアン氏のトレードマークとも言える「革ジャン」を、赤沢経済産業大臣も着て、「おそろい」を強調するなど、大歓迎を受けた。
7月に行なわれた経済産業省のイベントで赤沢経産大臣(左)とおそろいの革ジャンを決めるNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(右)
そうしたフアン氏の来日のハイライトは、来日二日目の夕刻に行なわれた日本の顧客・パートナーのCxO(CEOやCOO、CIOなどハイレベルのエグゼクティブのこと)など要人を招いて行なわれたレセプションだ。
NVIDIAが開催したレセプションで乾杯の音頭をとる松本洋平文部科学大臣(当時、右)とNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏
その中でフアン氏は「日本はいち早くNVIDIAのGPUをHPCに採用していただくなどNVIDIAの技術をいち早く採用していただいた国だ。今すべての産業がAIで変わろうとしている。ソフトウェア産業ではすでにリセットがおきており、今後は他の産業でも起こっていくだろう。だから今こそAIにシフトする機会であり、NVIDIAがそれをサポートできると考えているので私はここにきている」と述べ、NVIDIAが日本企業のAIシフトのために助けとなるソリューションを提供できると呼びかけた。
NVIDIAは、CUDAおよびCUDA-XというGPUを使いこなすためのソフトウェアソリューションを提供しており、各産業向けに展開してきた。自動車用、製薬用、ロボット用……さまざまなAIを活用するために必要なソフトウェアが用意されており、顧客がAI活用の基盤としてNVIDIA GPUを採用する最大の理由になっている。
そうしたソフトウェアとNVIDIAのGPUの組み合わせが、AI実装への近道だとフアン氏が指摘した形になる。
AIモデル開発をリードするAnthropic、Google、OpenAI
もちろん、そのこと自体もとても重要なのだが、IT業界に話を限ると、重要なのはその前段階の発言だ。
具体的には「今すべての産業がAIで変わろうとしている。ソフトウェア産業ではすでにリセットがおきている」という部分がそれに該当する。フアン氏の見解では、ソフトウェア産業ではAIによりリセットが発生しており、筆者的に言い換えるなら「覇権企業群の組み替え」が起きているということだ。
MicrosoftのAIツール「Copilot」ではAIモデルがOpenAIの「GPT」、Anthropicの「Claude」から選択できる
それらは米国でのIT企業のカンファレンスなどに出ているとひしひし感じる。ではどこが新しい覇権企業なのかというと、それがAnthropic、OpenAIの二社で、それに従来からの覇権企業だったGoogleを加えた3社がAI時代の新しい覇権企業とされることが多い。
Google Cloudが4月に米国で開催した年次イベントの中で、Google Cloud日本代表 三上智子氏は「すでにわれわれの競合はAmazonやMicrosoftではなくなっており、AnthropicやOpenAIであることが増えている」と述べており、競争の軸が変わっていることを指摘する。
この3社の共通点は、AIモデルを自社開発しているということだ。
フロンティアモデルと呼ばれる最先端モデルをリードするのがこの3社となっており、Anthropicは「Claude」、Googleは「Gemini」、OpenAIは「GPT」を開発している。AIモデルの出来によってAIソフトウェアが処理する応答速度や結果の正確性などが決まってくる。このため、よりよいサービスを提供したい場合には、より優れたAIモデルが必要となる。
この競争において、AIモデル開発各社は、毎日と言っていいほどの頻度でAIモデルのアップデートを続けており、だれが最初にAGI(汎用人工知能)と呼ばれる人間の能力に匹敵するAIモデルを開発できるのかを争っている。
AIモデルは、ソフトウェアに組み込んで活用される。AnthropicやOpenAIのAIモデルは他社のソフトウェアやサービスに組み込まれる例が多い。Googleの場合は、自社のクラウドサービスなどに組み込むことが多く、外部で使われる例もあるが、両社に比べると事例は少ない。
MSはOpenAI一本足から転換 枠組みが変わりつつある
AIモデル採用企業の代表例は、OpenAIと数年にわたり密接なパートナーシップを組んでいたMicrosoftだろう。
MicrosoftはOpenAIの設立時に出資した経緯があり、まだ株式市場には未公開のOpenAIの主要な株主の一社だ。そのためMicrosoftは長い間、OpenAIのGPTを独占的に自社サービスに活用してきた。OpenAIのGPTが他社のAIモデルを凌駕する性能をもっていた時期にはそれで問題なかったのだが、徐々にGoogleのGemini、ここ1年ほどではAnthropicのClaudeの評価が高くなっていき、Microsoft自身の競争力を削ぐ状況になっていった。
Salesforceのカンファレンス「Dreamforce」の基調講演にゲスト登壇したAnthropic CEO ダリオ・アモディ氏(左)、右はSalesforce CEO マーク・ベニオフ氏
Microsoftに限らず、そういうことはどこのソフトウェアベンダーでも起きており、現在は「マルチAIモデル」と呼ばれる戦略に移行するところが増えている。
どのAIモデルがいいかは刻々と変わるため、複数の会社のAIモデルを導入し、必要に応じて切り替えていくのが当たり前になりつつある。前出のMicrosoftはOpenAIの初期に出資した経緯もあってOpenAIのGPTだけを排他的に利用してきたが、ここ最近はAnthropicのClaudeも選べるようにしており、MicrosoftのAIサービスを利用しているユーザーがOpenAI、AnthropicのAIモデルのどちらかから選べるようになっている。
このように、AIモデルの重要性が増すとともに、Anthropic、OpenAI、Googleの重要性も増している。多くのユーザーが従来のITシステムを契約する代わりに、Anthropicが提供するAIサービスを契約するという乗り換えが発生している。
そこで、従来型のITサービスを提供する企業も、AnthropicやOpenAIなどとの提携を強めつつある。
CRM(顧客関係管理)でトップシェアを誇るSalesforceもその代表で、9月に開催した年次イベント「Dreamforce」では、同社が「Claudeforce」と呼んでいるAnthropicのClaudeをSalesforceのサービスにアクセスする入り口にするという提携が発表された。Anthropic CEO ダリオ・アモディ氏がゲストとして呼ばれて、Salesforce CEO マーク・ベニオフ氏と両社が今後も提携を深めていくことなどが確認されている。
OpenAI CEO サム・アルトマン氏
最近、米国でIT系のカンファレンスが行なわれると、多くの場合はアモディ氏やOpenAI CEO サム・アルトマン氏がスペシャルゲストとして呼ばれることが多く、両社がIT企業からパートナーとして最重要視されていることを示している。
3社がAIモデルを開発すればするほど儲かるのがNVIDIA
そうしたAIモデルを開発するには、AIモデルの原型となるアルゴリズムを設計し、そのアルゴリズムに対してデータを読み込ませて学習するというプロセスが必要になる。その学習に必要となるのが、NVIDIAが提供するGPU(Graphics Processing Unit、画像演算装置)だ。
NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏が手に持っているのが最新AI用GPU「Rubin」、こうしたGPUを大規模な場合は数十万基利用してAIモデルの学習が行なわれる
AIモデル、特に最近のフロンティア・モデルと呼ばれる人間の知性に近づきつつあるAIモデルでは、膨大な量のデータを学習する必要がある。AIモデルに学習させるというのは、こどもに学校で知識を詰め込むような作業だと考えればわかりやすいだろう。そうやってAIモデルを教育していくフェーズだ。
AIの黎明期にはそうした学習は、一台のPCなどで行なわれたが、当初その処理には数日~数週間と非常に長い時間がかかっていてAIの開発者の大きな悩みになっていた。そうした時に注目されたのがNVIDIAのGPUだ。NVIDIAのGPUは、PC上で高品質なゲームを遊ぶのに使われていた(だからGPUは画像演算装置なのだ)が、大量のデータを一度に処理できるという特性を持っていた。
AI開発者がNVIDIAのGPUをAI学習に利用したところ、数週間かかっていた学習がわずか数時間で終わってしまった。そこからAIの学習=NVIDIAのGPUを使うのが良いという図式ができあがり、当初は1台のGPUだけで行なわれていた処理が、数万台から数十万台といった大規模に並べて演算されるようになっている。
Anthropic、Google、OpenAIなどのAIモデルの学習も、そうしたGPU上で行なわれている。そのため、各社がAIモデルを血眼になって開発する度に、NVIDIAにチャリンチャリンとお金が落ちてくる……NVIDIAが毎年過去最高の売上を更新し続ける背景にはこうした構図があるのだ。
ここまで説明したとおり、GAFAMからAGNOに転換を見せているのが今のITジャイアントの構図だ。AGNOは、もはや説明不要かと思うが、Anthropic、Google、NVIDIA、OpenAIの4社の頭文字だ。
このように、IT業界の枠組みはAIで大きく変わりつつある。しかしこの4社とて盤石という訳ではない。これまでこうした枠組みの変更は10年~20年に一度起こってきたのがIT業界の歴史だが、その枠組み変更のサイクルは早まっている。
それを加速しているのがAIであることは疑いの余地はなく、今後も変わっていく可能性は誰も否定できない。
笠原一輝

1994年よりテクニカルライターとして活動を開始し、プロフェッショナルライターとして25年近いキャリアがある。90年代はPC雑誌でライターとして、00年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。また、2008年からはインプレスのCar Watchに寄稿を開始しており、日本モータースポーツ記者会(JMS)の会員としてCar Watchにモータースポーツ関連の各種レポートの他、自動車向けのITソリューションの記事を寄稿している
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