絶滅前のサーベルタイガーは近親交配が進み「病気だらけ」だった可能性
ラ・ブレア・タールピットでは天然アスファルトにはまった大型草食動物を狙って集まった捕食者や腐肉食動物が次々に捕らえられ、この「肉食動物のわな」によって100カ所を超える堆積地点に更新世末期の動物の骨が大量に残されています。
シュメーケル氏らは、ラ・ブレア・タールピット博物館が所蔵する仙骨849点、腰椎2130点、第7頸椎743点の計3722点を目視で調べ、そのうち病変のある49点をCTで撮影しました。化石の多くはばらばらの状態で見つかっているため、研究チームは同じ部位で最も多く残っている仙骨の数を基に、標本は最低849頭分に相当すると見積もっています。
シュメーケル氏らが調べた標本群では、本来とは異なる種類の椎骨の特徴を持つ「移行椎」という先天異常が226例、胸椎の一部が二分する異常が32例、複数の椎骨が一体化した「ブロック椎」が48例確認されました。さらに、別々の堆積地点から出土した3頭分の腰椎では、脊髄から枝分かれした神経が通る「椎間孔」という穴が異常に広がっていました。
人間や犬の場合、椎間孔を通る神経に腫瘍ができてゆっくりと成長すると、周囲の骨を滑らかに吸収しながら穴を押し広げることがあります。約1万2000年前の地層から見つかった標本「HC 12233」では左側の椎間孔が右側の約2倍に広がり、腫瘍が押しつけられていたようなくぼみも残っていました。以下の画像は左が「HC 12233」、右が腫瘍が存在した場合の模式図です。
残る2頭分の標本「HC 12288」と「HC 8253」にはブロック椎や異常な骨の増殖もあり、椎間孔は約20mm×10mmまで拡大していました。正常な標本の椎間孔は約10mm×6mmだったため、穴の幅は約2倍に広がっていたことになります。穴の縁が滑らかで、腫瘍が椎間孔の内外へ広がった際に見られる「ダンベル型」だったことから、研究チームは3頭に脊髄神経腫瘍が存在した可能性を指摘しました。以下はHC 12288で、右上の白い矢印が広がった椎間孔、右下の黄色い矢印が椎骨の癒合を示しています。
最低849頭分の標本から3頭に同様の病変が見つかったため、研究チームは化石標本中の出現頻度を10万頭当たり353と推定しました。人間で報告される脊髄神経腫瘍の発生率は10万人当たり0.22~0.38であり、サーベルタイガーの標本で推定された値は非常に高く見えます。ただし、何千年にもわたって天然アスファルトに集積した化石に病変が残っている割合と、医療機関で診断された人間の発生率をそのまま比較することはできません。
脊髄神経腫瘍は犬では痛みや足を引きずる症状、筋肉の萎縮を引き起こすことがあり、人間でも患者の約75%が何らかの痛みを訴えます。同様の症状がスミロドンにも生じていれば、獲物に飛びかかって仕留めることが難しくなります。シュメーケル氏らは、こうした個体が天然アスファルトにはまって動けない草食動物を狙うことで自身も天然アスファルトにはまってしまった可能性があると考えています。
人間の脊髄神経腫瘍には遺伝子変異と関連するものが多く、少数の雄牛の子孫からなるホルスタインの家系でも末梢神経腫瘍の多発が報告されているほか、更新世末期には大型哺乳類の個体数減少に伴って近親交配が増えた証拠があります。
ラ・ブレア・タールピットのスミロドンでは遺伝性疾患として知られる骨軟骨症のほか、現生のハイイロオオカミで近親交配と関連づけられている腰仙部の移行椎も確認されています。研究チームは、個体数の減少と近親交配に伴う遺伝的素因が、スミロドンに脊髄神経腫瘍や先天異常が多かった理由の1つになった可能性があると考えています。
ただし、ラ・ブレア・タールピットの化石には軟らかい組織が残っていなかったため、組織を採取して調べることができず、椎間孔の拡大が腫瘍によるものだったと断定することはできません。また、椎間孔の拡大は腫瘍ではなく、神経周辺の慢性的な炎症で生じた可能性もあります。さらに、スミロドンのDNAは分析されていないため、近親交配がどの程度進んでいたのかは不明であり、近親交配と病変を結びつける説は検証されていません。感染症や環境中の有害物質も先天異常の原因候補として挙げられています。
それでもシュメーケル氏らは、脊椎に刻まれた変化は脊髄神経腫瘍の存在を強く示すもので、絶滅期のスミロドンにとって無視できない病気だった可能性があると結論づけています。
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