【文具知新】ヨドバシカメラは実は文具もスゴイ! 「品ぞろえNo.1」にかける情熱
ヨドバシカメラ マルチメディア池袋の文具売場(6月29日撮影)
突然ですが、筆者は千葉県の郊外に住んでいます。都市部でも文具店は減少の一途をたどっていますが、郊外はさらに購入できる場所が少なく、どうしても欲しい文具があるともっぱらネット通販を利用する毎日です。そんな中で頼りになるのが「ヨドバシ・ドット・コム」。文具専門店に勝るとも劣らない品ぞろえ、かつボールペン1本からでも全国送料無料で、筆者の住んでいるエリアならほぼ翌日に届きます。
「これは便利だなぁ」と思ってめちゃくちゃ使っているのですが、ある時ふと心配になりました。私はすっごく助かってるけど、これヨドバシカメラさん大丈夫? メリットあるの? もし何の得にもなっていないんだったら、さすがに申し訳なさすぎる! というわけで、ご担当の方に直接ギモンをぶつける機会をいただきました。
なぜ家電量販店が文房具に力を入れるのか
今回お話をうかがったのは、ヨドバシカメラ プラチナ事業部の古屋雅章さん。本社の文具担当として、品ぞろえの決定から商品の手配、仕入れ先である文具メーカーとのやりとりなどを一手に引き受けておられます。
――そもそも、ヨドバシカメラって家電量販店ですよね? それなのになんで店舗も、ECであるヨドバシ・ドット・コムも、文具の品ぞろえがめちゃくちゃ良いんでしょうか?
古屋「ヨドバシカメラは家電量販店ですよねってよく言われるんですけれども、実は働いている我々はそう思っていないんですよ」
ヨドバシカメラは家電量販店……じゃない?!
これは、いきなり意外な事実です。よくよくお話をうかがってみると、まずヨドバシカメラ全体として最も大切にしている価値の一つとして「品ぞろえナンバーワン」があります。それぞれの商品カテゴリーを専門に扱う担当者は、それぞれの分野でお客様に満足していただけるように、と品ぞろえを追求しています。それを文具担当としても追求した結果、いつのまにか文具専門店にも負けない品ぞろえになっていた、ということなんだそう。
購入頻度の高い買い回り品でお客様との接点を増やす
しかし、まだまだギモンは尽きません。
――でも、せっかく家電のような高単価の商品も扱っているのに、なぜ単価の低い文具を取り扱うんでしょうか。言い方は良くありませんが、あまり売り上げにはならないと思うのですが……。
古屋「私自身の生活でもそうですが、冷蔵庫とかエアコンとかテレビとか、そういった単価の高いものを買う機会というのはそうそうありませんよね。お客様とヨドバシカメラを常につないでいるのは、やはり文具のような買い回り品が大きなウェイトを占めています」
なるほど、たしかに文具は比較的安価ではありますが、日常的に購入するものです。どれだけ売り場を充実させても、店舗スタッフが商品知識や接客スキルを磨いても、そもそもお客様に足を運んでもらえなければ、効果を発揮できません。
特別な買い物だけではなく、まずは普段の買い物で店舗やECを利用してもらう機会を増やす。そうして「ああ、こういうものも売っているのか」と何となくでも覚えていてもらえれば、いざ「エアコンが壊れた」「冷蔵庫が壊れた」という時に「そうだ! ヨドバシカメラに行けばあるよね」と思い出してもらいやすくなる、というわけです。
たしかに、筆者も文具を買いに行ったついでに他の売り場も絶対に見ますからね。それで「新しいドライヤー欲しいんだよな~」と思って買いたいものリストに入れたりしますから。文具以外に、シャンプーや洗剤などの日用品、アルコール類などを取りそろえているのも、同じ理由だそう。
つい当初の目的以外の売り場も見ちゃいます
古屋「お買い上げの金額に関わらず、お店にお越しいただくお一人お一人が大切なお客様であることに変わりはありません。それに、幅広い品ぞろえがあれば、家電の購入で貯めたポイントを店舗やヨドバシ・ドット・コムで使っていただく、といったこともできますから」
――あ、それまさに! いろいろ買って貯めたポイントを文具に使ってます。「これヨドバシカメラさんに何のメリットもないんじゃないか」と思ってましたけど、使って良いんですね。
古屋「もちろんです(笑)。どんどん使ってください」
品ぞろえは「とがり過ぎない」を意識
――文具に関しても「品ぞろえナンバーワンを追求する」ということですけれど、ターゲットなど意識していることはありますか。
古屋「実際に店舗を見ていただいてもお分かりになるかと思いますが、ヨドバシカメラは小さなお子様からお年を召した方まで、年齢や性別を問わず幅広い方がお買い物をしていただくお店です。ですから、ある一定の層をターゲットにという品ぞろえは難しいんですね。なので、特にとがった品ぞろえはせず、幅広い商品をバランスを見てそろえていく必要があります」
たしかに店舗に足を運んでみると、平日はビジネスパーソンが目立ちますが、土日は家族連れが多く来店しています。お年寄りもいますし、立地によっては外国人観光客も多くいて、客層は本当に多種多様です。
文具好きやマニアな層が主な来店客である文具専門店ならば、「うちはガラスペン」「うちは紙モノ」のように得意分野を絞って個性を出し、とがった品ぞろえをすることもお店としての魅力になるでしょう。
しかし客層がとても広いヨドバシカメラでは、「まず多くの方に必要とされるものをしっかりそろえ、その上で店舗や売り場の規模に合わせて肉付けしていく」ことを大事にしているんだとか。「あくまでも基本をキッチリおさえて、その上でとんがったものもある」というバランスが理想なんだそう。
品ぞろえは「とがりすぎない」を意識
新商品はすぐに並べることを徹底
また、筆者がヨドバシカメラの大きな特徴のひとつだと感じているのが、「新商品が発売日に並んでいること」です。文具業界になじみのない方からすると「それって当たり前じゃない」と思われるかもしれませんが、実は文具のプレスリリース上の「発売日」は「あるようでいてない」ことが少なくありません。
もちろん発売日を意識して店頭を作っているお店もたくさんありますが、売り場としての魅力は新商品だけでは決まりませんから、発売日にはあまり厳密にこだわらないというケースも多いのです。筆者もそれ自体が悪いことだと思いません。しかし、マニアとして「どうしても発売日に欲しい!」というアイテムがあると、いくつもの店舗をハシゴして探し回ることになってしまいます。
――ヨドバシカメラはどの店舗でも新商品が発売日にキッチリ店頭に並んでいる印象です。お店の方でも意識されているのでしょうか?
古屋「新商品も『お客様に幅広く求められる価値』の一つだと思いますので、なるべく多くお客様の手に届くような形での仕入れを心がけています。売り場については、ヨドバシ・ドット・コムで店舗の在庫が確認できるようになっていますので、バックヤードに置いておくと、在庫があると思ってご来店いただいたお客様が『ない』となってしまう可能性があります。そのため、入荷したものは即陳列するという習慣が身についていますね」
ヨドバシ・ドット・コムでは各店舗の在庫を確認できる
なるほど。たしかに、筆者もWebサイトやアプリで在庫を確認してから店舗に向かうことはよくあります。お客様の期待と信頼を裏切らないようにという、店舗スタッフの方の尽力の賜物だったのですね。
古屋「ヨドバシ・ドット・コムは事前受注で買われるお客様も非常に多いです。確実に入手したいものがあれば、予約もご検討ください」
やっぱり「全国どこでも送料無料」は強い!
――店舗とヨドバシ・ドット・コムだと、どちらの方が売り上げの比率が大きいのでしょうか?
古屋「文具に関しては、ECの方が割合としては多いです。やはり品ぞろえが店舗よりも充実しているのと、全国どこでも送料無料ですから」
「文具・オフィス用品」カテゴリーの商品は約13万件!(記事執筆時点)
聞けば、高価な家電や腕時計などは実物を見て細かいところまで確認したり、専門的な知識を持った店舗スタッフから納得がいくまで説明を聞いたりしてから購入したいと考えるお客様が多いのだそう。その点、文具は普段から使用しているものをリピート買いするといったニーズも多く、ECでも気軽に購入できるのだとか。
また近年では、偽の通販サイトによる詐欺なども巧妙化し社会問題となっていますから、日本企業であり、確実に正規品が届くという信頼感もヨドバシ・ドット・コムの強みであると感じます。しかし一方で、どうしても気になることが……
――私も以前は文具業界にいたのでよくわかるのですが、文具のように単価が低いものだとどうしても送料の比率が高くなってしまいますよね。ヨドバシ・ドット・コムは替芯1本でも送料無料で注文できて便利だなと思う半面、これはどう考えても赤字だよな? と心配になってしまいます」
古屋「たしかに、その替芯1本という注文単体で見ればそうかもしれません。でも、ヨドバシエクストリーム便(自社配送)でコスト削減もしていますし、実際にはまとめ買いでご利用いただくことも多いので、全体で見ればバランスが取れています。ですから、気にせずお買い求めいただければ思います。
自社配送のヨドバシエクストリーム便
よ、よかった~。これからもどんどん、ヨドバシ・ドット・コムを使っていこうと思います(なるべくまとめ買いで)。
「文具に強い」と認識されるようになった意外なきっかけ
――今は本当に、我々文具マニアの間でヨドバシカメラは文具に強いお店のひとつとして認識されていますが、昔はここまでの認知度はなかったですよね? 何かきっかけのようなものがあったのでしょうか。
古屋「私は2021年から文具担当として携わるようになったんですけれども、その年から『文房具屋さん大賞』の審査員に加えていただいたことが大きかったかと思います」
「文房具屋さん大賞」は、毎年2月頃に扶桑社から発行されるムック本で、全国の有名文具店の社員が文具のプロとして審査員となり、過去1年間に発売された新作文具から「本当に買いたい!」と思う逸品を選出しています。
古屋「本当に名だたるお店の中に加えていただいておこがましいのですが、そこから文具ファンや文具メーカーの方からの見る目も変わったように思いますね。今まで取り扱えなかったような商品も入れられるようになりましたし、文具ファンの方からの買い先としての認知度も高まったように感じます」
「文房具屋さん大賞」をきっかけに周囲の見る目が変わった
もちろん、審査員に選出されるということ自体が過去からの積み重ねがあってのことだと思いますが、「文房具屋さん大賞」が転機になっていたとは意外な事実でした。
お客様から話題にしていただけるというやりがい
――我々文具マニアがSNSで「ヨドバシカメラは文具店!」と騒いだりしているのはご覧になっていますか? それについては、どう思われるのでしょうか。
古屋「もちろん嬉しいですよ。SNSを拝見しているとおほめの言葉もありますし、時には厳しいご意見もありますが、当社への関心や期待がなければ出てこないことだと思いますので、すべてありがたく受けとめております」
こっそり騒いでいたつもりが、しっかり見られていたのはちょっと恥ずかしいですね……。最後に、こんな質問もしてみました。
――品ぞろえが一番充実しているのはヨドバシ・ドット・コムだということですが、店舗だとここの文具売り場がすごい、というのはありますか?
古屋「面積が一番大きいのは大阪の梅田です。品ぞろえという意味で充実しているのは東京の池袋でしょうか。やはり今年の6月にオープンしたばかりの新店ということもあり、ゼロから品ぞろえを考えることができましたので、高級ノートや画材など、今までにないカテゴリーの取り扱いにも挑戦しました」
池袋店では従来にないカテゴリーの取り扱いにも挑戦
筆者はまだ池袋店を見ることができていませんが、ますます行くのが楽しみになりました。読者の皆さんもぜひ足を運んでみてください。
品ぞろえが人を呼び、人が品ぞろえを呼ぶ
今回お話をうかがってよく分かったのは、ヨドバシカメラが大切にしている品ぞろえの力です。品ぞろえの良さがあるからこそ幅広い層の人が集まり、また幅広い層の人が集まるからこそ品ぞろえをさらに充実させることができる。卵が先か鶏が先かではありませんが、まさに正の循環の賜物と言えるでしょう。ヨドバシ・ドット・コムの自社配送や送料無料も、単価の高いものから安いものまで、幅広く扱っているからこそできることだと感じます。
筆者の個人的なギモンから始まった今回のインタビューでしたが、気になっていたことを色々聞けてとてもスッキリしました。これからは心置きなく、ヨドバシカメラで貯めたポイントをヨドバシカメラで文具に変換できそうです。
ヨシムラマリ
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。
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