[ITmedia News] 渦中のGMO、熊谷代表の発信は“火に油”か? 「経営トップが自ら広報」の功罪
著者
長沼史宏
[ITmedia]
グループ会社が提供する「お名前.com デスクトップクラウド」へのサイバー攻撃を巡り、GMOインターネットグループの熊谷正寿代表による発信が物議を醸しています。熊谷代表は10月25日に公開したブログ記事で、謝罪とともに政府への「能動的サイバー防御」の適用要請について、その考えを詳しく説明した他、自身のSNSでも活発に状況を発信しています。
ところが、この発信に対する受け止められ方はさまざま。中には自社の責任を政府に転嫁しているのではないかといった批判も見られます。GMOによるこれまでの広報発信を含めた危機対応には、評価すべき点も多くあります。だからこそ、今回の発信については、もう少し工夫の余地があったのではないかと感じています。
同社は10月21日の第一報以降、被害状況や対応方針について継続的に情報開示を行ってきました。27日午後7時10分には第12報を発表し、情報が公開された顧客への追加の見舞金や、犯人特定に向けた懸賞金制度の創設なども明らかにしました。短期間に12報もの発表を重ね、状況の変化に応じて情報を更新していることは、危機管理広報の観点から評価できる対応です。
危機が発生した際には、全ての事実が判明するまで発表を控えるのではなく、確認できた情報から順次開示し、必要に応じて更新していくことが重要です。特に今回のように、攻撃者の行動によって被害状況が刻々と変化する事案では、迅速かつ継続的な情報開示が求められます。その意味で、GMOの公式発表には、他の企業も参考にできる部分があると感じています。
では、なぜ熊谷代表の発信は批判につながってしまったのでしょうか。今回の騒動には、過去からあるGMOグループの評判、セキュリティインシデント対応としての適切さなどさまざまな論点がありますが、本記事ではクライシスコミュニケーションに携わる筆者が、危機管理広報の観点からその妥当性を考えます。
政府への要請は、なぜ公表する必要があったのか?
筆者が最も気になったのは、政府への能動的サイバー防御の適用要請を、公の場で大きく打ち出したことです。GMOは24日の第4報で、政府関係機関への要請を開始したことを発表しています。翌25日には熊谷代表が自身のブログで、その必要性や背景を詳しく説明しました。
もちろん、政府に支援や協力を求めること自体が問題だと言いたいわけではありません。同社が能動的サイバー防御の対象になるかという議論もありますが、そもそも今回のように国境を越えたサイバー犯罪も疑われる事案では、民間企業だけで対応できる範囲には限界があります。政府や捜査機関との連携が必要になることも十分に考えられるでしょう。
しかし、ここで考えたいのは、政府への働きかけと、それを社会に公表することは、まったく別の判断だという点です。政府への要請が必要であれば、まずは関係機関と水面下で協議し、公にすることなく粛々と進めていくという方法もあったはず。
特に能動的サイバー防御のように、国家の安全保障や捜査活動とも密接に関わる問題では、どのような対応を検討しているのかという情報そのものが、慎重に取り扱われるべき性質を持っています。GMOの提言を受けて、政府がどのような対応を検討しているのか、あるいは実際にどのような措置を講じるのか。それを公の場で議論することには、相応のリスクが伴います。
具体的には、公の場で議論することで政府側に説明を求める動きが生じ、対応の有無や判断基準に諸外国を含めた社会の関心が集まることは十分に予想できます。結果として、政府の対応方針や判断が報道の対象となり、攻撃者に対しても何らかの手掛かりを与えてしまう可能性もあります。
危機管理広報では、情報を積極的に開示することが重要です。しかし、積極的な情報開示と、何でも公表することは決して同じではありません。警察を含めた捜査機関やインテリジェンスに関わる領域については、情報開示に慎重さが求められることもあります。
実際、企業不祥事に関する記者会見などでも、刑事事件に発展する場合、捜査機関との連携については説明する一方、具体的な捜査内容や今後の対応については、捜査への影響を考慮して言及を控えるケースがあります。情報を開示することと、開示すべきでない情報を適切に管理することは、両立させなければなりません。
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