Gensparkはなぜ49人で年28製品を開発できるのか AIが組織の一員に
Genspark CTO カイホア・ズー氏
AIワークスペースの「Genspark」は、独自AIモデルの開発や企業向けAIエージェントの活用戦略について説明した。9月18日にはスライド生成に特化した独自モデル「Gen-1 Slides」を投入し、同社の評価では高性能AIモデルに匹敵する品質を、約6%のコストで実現したという。個人の業務支援にとどまらず、AIエージェントが組織の一員として働く環境の構築を目指す。
Gensparkでは現在、49人のソフトウェアエンジニアが開発を担当しており、過去1年間に28の製品・機能を投入した。開発工程にもAIエージェントを積極的に導入している。
スライド生成に特化した独自AI「Gen-1 Slides」
Gensparkが注力している取り組みの一つが、独自AIモデルによる生成コストの削減だ。同社では、オープンウェイトのAIモデルをベースにファインチューニングを実施し、特定の業務に最適化したAIモデルの開発を進めている。その最初の成果として9月18日に投入したのが、スライド生成向けの「Gen 1 Slides」だ。
同社によると、公開ベンチマークや社内評価において、Opus 5と同等水準の結果を達成しながら、利用コストを比較対象の約6%に抑えたという。約17分の1のコストで同等水準の処理が可能になる計算で、同じ予算で生成できるスライドの数を大幅に増やせる。
同社はAIエージェント全体のコスト削減にも取り組んでいる。処理内容に応じて適切なAIモデルを自動的に選択する「モデルルーティング」を導入し、簡単な質問には低コストのモデルを、複雑な推論には高性能なモデルを割り当てる。また、「Advisor Mode」では低コストのモデルが通常の処理を担当し、作業が行き詰まった場合などに高性能なモデルへ助言を求める。必要な場面だけ高性能なモデルを利用することで、コストを抑えながら品質の維持を目指す。
こうした最適化によって、有料プランの利用者向けにクレジットを消費せずに使える週間利用枠も導入した。セキュリティ面では、オープンウェイトモデルについても米国内の推論基盤を利用。外部のAIモデル提供事業者とは、処理したデータを保存しない「Zero Data Retention(ゼロデータ保持)」の契約を締結しており、入力データをモデルの学習に利用しない仕組みを採用しているという。
Gensparkが描く将来像は、単にAIによって資料作成や検索を効率化することではないという。AIエージェントが企業内の業務を理解し、人間やほかのAIエージェントと連携しながら仕事を進める、組織全体の変革を目指す。
同社は、多くの利用者がChatGPTなどを質問への回答や検索の代替として利用する一方、一部の利用者はAIエージェントに資料や動画の作成、プログラミングなどを任せる段階に進んでいると説明。さらにその先にある、AIが組織の情報や業務ルールを理解し、人間と協働する環境の構築を目指している。
その基盤となるのが「Second Brain」だ。メール、会議の議事録、プロジェクトの履歴、文書などを管理し、複数のAIエージェントが共通の情報を参照できる仕組み。利用するAIエージェントが変わっても、作業のたびに同じ情報を入力し直す必要がなくなる。
組織向けには、人間とAIエージェントが同じ環境でコミュニケーションできる「Gen Teams」を展開する。AIエージェント同士の情報交換にも対応し、人間を介さずに業務に必要な情報をやり取りできる。また、社内では組織内の知識や業務ルールを共通のナレッジベースとして管理する「TeamBrain」を活用。AIエージェントが同じ情報を参照することで、組織内の情報共有を効率化している。
49人で年28製品 AIが開発する「消灯工場」
Gensparkでは、49人のソフトウェアエンジニアで過去1年間に28の製品・機能を開発した。AIエージェントの実行基盤やファイルシステムなども自社開発しており、少人数で開発を進められる理由の一つが、AIエージェントによる開発工程の自動化にある。
同社が「Lights-off Factory(消灯工場)」と呼ぶ仕組みでは、人間がGitHub上の開発課題を選択すると、その後の実装やテスト、コードレビューを複数のAIエージェントが担当する。AIが独立した環境でコードを実装し、別のAIが動作を検証。さらに別のAIがコードをレビューし、テスト結果のスクリーンショットや動作確認の動画を開発者に提示する。最終的にコードを統合して製品へ反映するかどうかは、人間が判断する。
開発効率の高さを示す例として、オープンソースのオフィスソフト「GenOffice」を、1人のエンジニアが約1週間で開発した事例も紹介した。開発には約1万ドル分のAI利用クレジットを使用したという。
ただし、Gensparkは個人の開発効率を高めるだけでは、組織全体の生産性向上にはつながらないと考えている。AIによる開発の自動化に加え、Gen TeamsやTeamBrainを活用してチーム内の情報共有も効率化することで、少人数でも多数の製品を開発できる組織体制を構築している。
レオパレス21、約4000人に全社展開 みんなが「自分でできる」
企業の導入事例として紹介されたのが、レオパレス21の取り組みだ。同社は約4,000人の全役職員を対象に、Gensparkの全社展開を進めている。
従来も複数の生成AIツールを導入していたが、業務への活用は限定的だった。AIツールの一つは全社員の約6割が利用していたものの、もう一つのツールは月間利用者が約300人にとどまっていた。業務システムとの連携やアウトプットの品質に課題があり、チャットで簡単な質問をする程度の利用が中心だったという。
レオパレス21 DX推進部 中島氏
課題となったのが、社内の情報管理ルールだ。機密情報の保護を重視するあまり、AIに入力できる情報が十分に整理されておらず、実務での活用が難しい状況にあった。一方、過度な利用制限は、社員が個人契約のAIサービスに業務情報を入力する「シャドウAI」のリスクを高める可能性もあった。
そこで同社は4月にDX推進部を新設し、Gensparkを採用。AIに入力できる情報と禁止する情報を明確化したほか、全役職員を対象に研修と確認テストを実施し、合格した社員から順次アカウントを付与する仕組みを整えた。7月から全社展開を進め、資料作成では共通のテンプレートを利用できる環境を構築。導入翌月には全社会議の資料にも変化が見られ、社員が自発的にAIを利用するようになったという。
こうした働きかけもあり、Gensparkを活用した資料作成が効果を上げているという。従来は社員によって資料作成の得意・不得意があり、仕上がりにばらつきが生じていたが、AIスライドを利用することで一定水準の資料を作成できるようになったという。
このほか、災害対応にもGensparkを活用しており、被害情報の整理や分析などに役立てている。
日総工産、グループ13社の規定を統一 採用業務に「AI社員」
NISSOホールディングスのグループ会社である日総工産では、採用業務向けのAIエージェントを構築し、実務への活用を進めている。同社は工場向けの人材サービスを展開しており、求人情報の確認や応募者の選定など、多くの業務を人手で行なってきた。基幹システムやExcel、求人サイトなど複数のサービスを行き来する必要があり、作業時間や担当者による品質のばらつきが課題となっていた。
Gensparkの導入にあたっては、情報セキュリティ規定の見直しから着手した。3月ごろに社長からAI活用を進める方針が示され、5月の利用開始を目指して準備を進めたが、グループ13社で規定が統一されていないことが課題となった。そこで約2カ月をかけて規定を統一し、AIを業務に利用できる環境を整備したという。
導入は全社員への一斉展開ではなく、20~30代を中心に約60人を選抜して開始した。月1回の振り返りや成果物の共有などを通じて活用事例を蓄積。利用開始後は対象者の多くが積極的に活用し、追加の利用希望も増えているという。
こうした取り組みの一つが、Gensparkの機能を組み合わせた「AI社員」だ。人間がチャットで作業を依頼すると、AI社員が必要な情報を調べ、分析や資料作成などを実行する。人間は返された結果を確認し、最終的な判断を行なう。
現在は主に3つの業務を対象にAI社員を構築している。1つ目は求人市場の分析で、自社と他社の求人情報を比較し、勤務地周辺の賃金相場や競合状況を調査する。2つ目は求人原稿の作成支援で、掲載基準を満たしているか確認し、不足項目や修正が必要な部分を提示する。3つ目は求人と求職者のマッチングで、条件に合う候補者を絞り込み、推薦理由や面談時に確認すべき事項をまとめる。
これらのAI社員は、GensparkのナレッジベースやGen Teamsなどの機能を組み合わせて構築したもので、特別なシステム開発は行なっていないという。今後は社内システムとの連携を深め、採用業務の一部を自律的に進められる環境を目指す。
左:NISSOホールディングス グループDX担当執行役員 田熊 剛氏、右:日総工産 管理本部 DX戦略部 企画課 長崎 拓人氏
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