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Friday, October 16, 2026

[ITmedia エグゼクティブ] 眠れない日こそ活動量を増やそう。認知行動療法で自分を変える、一生モノの思考術とは?

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著者 京部康男 京部康男

[ITmedia]

Lifreeファウンダー 睡眠コーチ 日本睡眠学会/日本認知療法・認知行動療法学会 会員 角谷リョウ氏

 眠れなかった翌日、あなたはゆっくり休みますか。実は、そこが眠りの落とし穴かもしれない。

 ITmedia エグゼクティブの8月勉強会「認知行動療法『習慣デザイン』講座~いつの間にか、自分が変わる一生モノの思考術~」で、Lifreeファウンダーで睡眠コーチの角谷リョウ氏が語ったのは、考え方のクセを変えて習慣を変える「認知行動療法」の使い方だ。2026年には18年ぶりに新しい診療科「睡眠障害科」が認可されたが、効果の高いこの治療は日本でなかなか広がっていない。それはなぜなのか。眠りの話を入り口に、仕事や日々の暮らしにも生かせる「自分の変え方」を紹介する。

日本で不眠治療が広がらないのはなぜ?

 クリニックが看板などに掲げられる(標榜できる)診療科名は、法令で定められたものに限られている。そこに今年、新たに加わったのが睡眠障害科だ。これまで不眠に悩む人は内科か精神科か迷い、大学病院の睡眠外来か専門クリニックに頼るしかなかった。この選択肢の少なさこそが、日本で不眠治療が広がらなかった一因だと角谷氏は語る。

 ところが、その先の治療の中身は変わっていない。海外で不眠を訴えると、まず提示されるのは認知行動療法(CBT)だ。睡眠薬とほぼ同等の改善効果を持ちながらリバウンド率が低く、薬を使う場合も認知行動療法の併用が前提になる国が多いと角谷氏は説明する。アロマ療法や読書療法といった非薬物のアプローチも国家資格を持つ専門職が担い、保険適用の選択肢として組み込まれているという。

 一方、日本の不眠治療は、ほぼ薬物療法一択だと角谷氏は指摘する。処方薬は主に4種類に分かれる。脳と身体を強く鎮静させるベンゾジアゼピン系、それより作用を絞った非ベンゾジアゼピン系、減薬をデザインしやすいとされるオレキシン受容体拮抗薬、そして効果に個人差が大きいメラトニン受容体作動薬だ。すぐに効果が出やすいベンゾ系・非ベンゾ系が処方される場面が多いという。

 認知行動療法は制度上、保険適用の対象になっている。それでも角谷氏が学会で出会う医師や看護師の多くは「実施したことがない」と語るという。一応学会に参加はするが、実際に取り入れることはないというのが現状だと角谷氏は語った。

認知行動療法が広がらない理由は「病院経営」にあった

 認知行動療法が広がらない理由は診療報酬にある。認知行動療法は1回30分から40分ほどかかるが、報酬は医師実施で480点(4800円)、看護師実施で350点(3500円)にとどまる。時間をかけてCBTを提供するほど病院経営が厳しくなる構造だと角谷氏は語る。

 本格的に認知行動療法に取り組むのは、国立精神・神経医療研究センターや東京大学病院など一部機関に限られる。角谷氏が挙げた千葉大学の例では、50分のCBTを16回から20回実施し、総額はおよそ20万円に達する。予約枠も限られており、実際に受けられる患者数はごくわずかだという。

 薬物療法だけに頼るリスクとして角谷氏が挙げたのが「反跳性不眠」だ。睡眠薬は服用すれば効果が出やすいが、やめると元の不眠よりも症状が悪化することがある。自力で眠れなかった人が服薬をやめて以前より眠れなくなれば、再び薬に頼らざるを得ない。この繰り返しが薬への依存を強めていくパターンだと角谷氏は説明した。

 認知行動療法が有効とされる背景には、こうした薬物療法の限界がある。角谷氏の実績では、不眠症レベルの相談者でも1カ月でおよそ80%から90%が改善するという。一般的なエビデンスでは半年でおよそ60%の改善率とされ、初期や軽度の不眠であればCBTが最善の選択肢になり得ると角谷氏は語る。

眠れない日こそ動く?考え方が変わると、習慣が続く理由

 角谷氏が認知行動療法を最善とする理由は、行動だけでなく考え方そのものが変わる点にある。「認知」とは物事の捉え方や考え方の癖を指す。行動だけを一時的に変えても、根底の考え方が変わらなければ元に戻りやすい。考え方が変われば、その人にとっての「当たり前」が変わり、行動も自然に変化するためリバウンドしにくいという。時代とともに常識が変わるなか、角谷氏は「変えさせられるのか、自分で先に変えられるのかってめちゃくちゃ僕は大きい」と指摘する。自分で考え方を変える技術を持つことが、これからの時代に重要になるという。

図1 認知行動療法とは:「認知」「行動」「感情」の関係を整えるアプローチ(講演資料より)

 その好例が、「眠れない日こそ、活動量を増やす」という考え方だ。多くの人は、よく眠れなかった翌日は身体を休めようと活動を控える。しかし、日中に動く量が減れば、その夜はさらに眠りにくくなる。ここで「眠るには適度な負荷が必要」という認知に変わると、眠れていない日ほど歩き、刺激を受けようという行動に変わり、結果として睡眠の質が改善するという。

 認知行動療法には大きく3つの世代があると角谷氏は説明する。第1世代は行動療法と呼ばれ、まず行動してみることで考え方が変わるアプローチだ。第2世代は、エビデンスや理由を示しながら新しい考え方を提案し、納得の上で行動を変える。第3世代はマインドフルネスやACTに代表され、変えられない状況を受け入れることで心理的な負担を減らす技法だという。

図2 認知行動療法は三世代:行動を変える、思考を捉え直す、思考を見守る(講演資料より)

 角谷氏は、それぞれに向き不向きがあり、新しい世代ほど優れているわけではないと強調した。第1世代は理由を求めずまず行動できる層に効果的だが、エビデンスを求める層には響きにくい。第2世代は経営者やリーダー層のように、納得すれば柔軟に行動を変えられる層に向く一方、個人に合わせた設計の手間がかかるという。

 第3世代は、第1世代・第2世代を経てもなお解決しない状況を受け止める段階で使うべき技法だと角谷氏は語る。何も行動を試さないまま「まあいいか」と受け入れるだけの姿勢を、CBT本来の第3世代と混同すべきではないという。角谷氏は「何にもやってないのに受け入れちゃダメでしょって話なんですよ」と語る。まず第1世代でハードルの低い行動から始め、第2世代で段階的に難易度を上げ、それでも行き詰まる部分に第3世代を取り入れる順序を角谷氏は勧めた。

 第1世代の実践として角谷氏が最初に挙げるのが、寝室の掃除やシーツの洗濯、寝具選びといった環境づくりだ。嫌がる人は少なく、面白そうだからと取り組みやすい。角谷氏は「楽しくやれば成功率は100%近いんですよ」と語る。シーツを月1回洗っている人は、セミナー会場で手を挙げてもらうと1割から2割にとどまるという。

図3 楽しくできる行動療法の例:お気に入りのシーツ選び、寝室の断捨離、寝室の掃除(講演資料より)

 第2世代では、ハードルを段階的に上げる。7000歩歩けば快眠につながるというエビデンスがあるが、いきなりは厳しい。そこで、不眠症になりにくいとされる4000歩を最初の目標に置く。認知を変える順序も重要だと角谷氏は言う。「自分にとってはドウデモイイ認知から変えていかないと、コアビリーフみたいな認知は変わらない」。

 「朝が弱い」という思い込みも、捉え直しの対象になる。朝は体温が1日で最も低くホルモンも出ていないため、起きにくいのは当たり前だと考える。目覚めていなくても起き、白湯やシャワーで自分の身体を起こせばよい。習慣の定着期間は行動で異なり、単純なことなら1週間、ややハードルが高ければ3週間、運動のように段階が必要なものは2カ月から3カ月が目安だという。

片付けると、考え方が変わる?会社でも使える3つの工夫

 認知変容の成功率を高める方法として角谷氏が紹介したのが断捨離だ。理由のひとつは、ほとんどの人が時間と脳のリソースを使い切っており、新しい習慣を始める余地がないことだ。何かを取り除かなければ、新しい行動を入れる時間も思考の余白も生まれないという。

 もうひとつの理由は、環境が無意識のうちに行動を規定することだ。角谷氏はGoogleの社内実験を例に挙げた。会議室のM&M’sチョコレートを、すくって食べる容器から小袋に変えただけで消費量がおよそ6割減ったという。会議の参加者に痩せようという意識は一切なかったにもかかわらず、環境を変えただけで行動が変わった。自分で環境をコントロールすることが、認知変容の近道になるという説明だ。

 3つ目の理由は、断捨離のプロセス自体が認知を変える練習になることだ。これまで必要だと思い込んでいた物を手放してみると、「実はなくても困らない」という気づきが生まれる。予備のコードは5本必要だと思っていたが2本で足りた、といった小さな発見の積み重ねが、思い込みを見直す訓練そのものになっているというのが角谷氏の見立てだ。

図4 断捨離は「認知を変える」最高の練習:手放す・残すを選ぶうちに基準が変わる(講演資料より)

 企業の健康経営セミナーで従業員の行動改善率を高める手順にも角谷氏は触れた。まずセミナー前に従業員が抱える困りごとを調査し、押し付けではなくその解消という切り口で構成を組み立てる。健康経営のセミナーが失敗しやすいのは、会社側が「痩せなさい」と一方的に求めるケースだと角谷氏は指摘する。

 次にセミナー自体を一方的な聴講ではなく参加型の構成にする。質問や回答を随所に組み込み、聞くだけで終わらせない設計にしたうえで、無理なく取り組める行動計画を選択できる形で提示する。最後に、参加者が宣言した行動をアンケートとして必ず回収し、取り組み内容を見える化する。この3つを徹底することで、強制感を与えずに高い行動改善率を実現できると角谷氏は語った。

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