人生そのものが小説の材料、小説は読者自身の人生を読むための「拡大鏡」 プルースト『失われた時を求めて』を読む(下) | ライフ | 東洋経済オンライン

紅茶に浸したマドレーヌを口にした瞬間、主人公は喜びに満たされ、田舎町コンブレーでの少年時代の記憶がよみがえる。本作序盤の有名な場面だ。
しかし、プルーストが描いたのは記憶だけではない。読み進めると、厄介な問いが現れる。──私たちは目の前の人を本当に見ているのだろうか。すなわち、人間の認知というテーマである。
ビジネスに効く名著のエッセンスを識者がコンパクトに解説する。【原則土曜日更新】
舞台は百年以上前のパリ社交界。若き主人公は作家志望だが何を書いてよいかわからない。憧れていた貴族のサロンに入り込むが、そこは虚飾と序列の世界だった。誰を晩餐会に招き、招かないか。肩書、評判、噂などを基に「あの人はこういう人だ」とのイメージが勝手につくられる。自分が言っていない言葉が、人から人へ伝わり、自分に戻ってくる。人間の他者認識は実にいいかげんだ。鋭い観察眼を持つ主人公は、権威ある貴族サロンの実態に幻滅する。だが、その評価体系から離れられない。
この記事は有料会員限定です
残り 811文字
97 記事
関連記事
本文の内容に基づいた記事をピックアップしています
フォローすると、最新記事をメールでお知らせします。
きぬがわ りかRika Kinugawa
文芸春秋で翻訳書の編集に長年携わる。担当作に『イーロン・マスク』『AI2041』『因果推論の科学』『人間には12の感覚がある』『Humankind 希望の歴史』など。
KioskNews shows a cleaned-up reading view extracted from the publisher’s page — the original always lives on their site, not ours.
