電気で細菌を死滅させる歯ブラシが開発される、歯磨きの動きで発電するため電池不要

歯ブラシの毛が曲がる際に発生する電気を利用して、虫歯や歯周病の原因となる細菌を死滅させる歯ブラシを北京大学の研究チームが開発しました。電池を使わずに歯磨きの動作だけで発電する仕組みで、従来の歯ブラシよりも歯垢や歯茎の炎症を効果的に減らせることが実験で確認されています。
Self-charged toothbrush facilitates tooth healthcare maintenance | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aeg5744
Toothbrush zaps bacteria with electricity made when bristles move | Nature
https://www.nature.com/articles/d41586-026-03586-y
一般的な歯ブラシは、毛先で歯の表面をこすることで歯垢(プラーク)を物理的に除去します。しかし、歯磨きだけですべての細菌を取り除くことは難しく、生き残った細菌が再び増殖して歯垢を形成することがあります。
北京大学のルー・ヤンホイ氏らの研究チームは、力を加えて変形させると電荷が発生する「圧電効果」を持つ素材を歯ブラシの毛に採用することで、歯垢を物理的に除去すると同時に細菌を殺菌する歯ブラシを開発しました。
研究チームが採用したのはポリフッ化ビニリデン(PVDF)というプラスチック素材で、PVDFを引き伸ばして加熱することで圧電特性を持たせました。このPVDF製の毛を採用した歯ブラシで歯を磨くと、毛先が曲がるたびに電荷が発生します。発生した電荷は唾液や水分と反応し、反応性の高い活性酸素を含む物質を生成します。この物質は細菌の細胞膜を傷つける働きがあり、歯ブラシでこするだけでは除去しきれない細菌にも作用するというわけです。また、毛先には静電的な性質もあり、細菌が付着するのを抑える効果が期待されています。
研究チームはまず、虫歯の原因菌として知られるミュータンス菌と、歯周病に関係するジンジバリス菌を使って殺菌効果を検証しました。その結果、新しい歯ブラシの毛はミュータンス菌の約53%、ジンジバリス菌の約78%を死滅させました。一方、同じ条件で一般的なナイロン製の毛を使った場合だと殺菌率はそれぞれ約9%と約8%でした。
さらに、人間の口腔内から採取した歯垢を牛の歯のエナメル質上で培養し、歯磨きによる除去効果を比較しました。3分間のブラッシングで従来のナイロン製歯ブラシの除去率が約80%だったのに対して、新しい歯ブラシは歯垢の99%以上を除去することに成功したとのこと。
研究チームは実際の人間に対する効果も調べています。歯垢の蓄積や歯茎の炎症がある成人115人を対象に臨床試験を実施し、最終的に109人のデータを分析しました。参加者は新しい歯ブラシか従来のナイロン製歯ブラシを使用するグループに分けられ、3カ月間にわたって1日2回の歯磨きを続けました。

その結果、新しい歯ブラシを使用したグループでは、歯垢の蓄積や歯茎の炎症、出血に関する指標が約40%改善しました。一方、従来の歯ブラシを使用したグループの改善率は約15%でした。また、歯垢に含まれる細菌を遺伝子解析したところ、新しい歯ブラシを使用したグループでは口腔疾患に関連する細菌の割合が減少し、有益と考えられる細菌の割合が増加していました。
安全性についても予備的な検証が行われています。研究チームは、歯ブラシの素材が培養細胞に有害な影響を及ぼさないことや、歯磨きによって歯のエナメル質の表面が損傷しないことを確認しました。また、3カ月間の使用を想定した耐久試験でも、毛先の形状や発電性能が維持されました。
研究には参加していないニューヨーク州立大学バッファロー校の歯学者であるフランク・スカナピエコ氏は電荷が発生する新しい歯ブラシについて、「歯磨きの動きから電気を生み出す仕組みは、従来の発想に新しい工夫を加えたもの」と評価しています。その上で、実際の有効性や安全性を証明するにはさらなる試験が必要だと指摘しました。
今回の臨床試験は3カ月間と比較的短く、虫歯や歯周病そのものを長期的に予防できるかは確認されていません。製造コストや長期使用時の安全性についても検証が必要です。研究チームは今後より長期間の追跡調査を実施し、新しい歯ブラシが口腔の健康維持にもたらす効果を詳しく調べる方針です。
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