【西田宗千佳のイマトミライ】「HomeView」で動き出すアップルのスマートホーム Siri AIの可能性と日本の課題
アップルの新製品である「HomeView」。日本での発売時期は未定
10月13日(アメリカ時間)、アップルは新デバイス「HomeView」を中心とした、スマートホーム関連機器を発表した。
ただし、アップルが発表した機器は日本での発売予定がはっきりしない製品が大半だ。いつか発売されるかもしれないが、現時点では日本発売時期が公表されていない。
今回は、その理由を含め、アップルのスマートホーム戦略を分析してみよう。
「アップデート」と「完全な新製品」
今回アップルが発表したスマートホーム機器は、おおむね3つの方向性に分けられる。
1つは「アップデート」。「HomePod mini 2」と「Apple TV 4K(第4世代)」がこの領域だ。新機能はあるが基本的には既存モデルのアップデート。この2つは日本でも11月13日に発売される。
2つ目は「新機軸」。「HomeView」がまさにこれだ。こちらはアメリカを中心としたいくつかの国で販売されるものの、日本での販売時期は未公表である。
発売時期についてはまたのちほど考察するとして、HomeViewとはどんな製品なのだろうか?
据え置きでディスプレイを搭載した「HomeView」
AmazonやGoogleは、スマートホーム向けに、ディスプレイを搭載した、俗に「スマートディスプレイ」と呼ばれる製品を販売している。Amazonなら「Echo Show」シリーズ、Googleなら「Google Nest Hub」シリーズがそれにあたる。
スマートホームの場合、セキュリティカメラの内容を表示したり、現在の室温をチェックしたりと、音声だけでは済まないことも少なくない。映像や音楽の再生など、ディスプレイがあった方が良い用途ももちろん多い。料理のレシピやスケジュールなどを表示したい、というニーズも増えているので、「ディスプレイのついた製品があった方が良い」というのはわかりやすい話だ。
キッチンでのレシピチェックには大きなニーズがある
だが、他社がこの種の製品を出したのは2010年代後半のこと。幾度かのアップデートを経た後であり、アップルはかなりゆっくりと市場に入ってきたことになる。
とはいえ、似たことはApple TVを介して実現できたし、iPadもある。切迫したニーズがなかった……と考えることもできるだろう。
そんな中で、アップルはHomeViewを発売することになった。ディスプレイは正方形で、壁にかけることもできる。Apple Vision Proのユーザーでもある筆者から見ると、Vision Proの機能である「ウィジェット」を思い出す。
卓上モデルの代わりに壁掛けモデルも用意
Vision Proの「ウィジェット」。イメージがかなり近いのが面白い
HomeViewの特徴は、299ドルと「そんなに高くはない」ところにある。iPadがあれば同じことはできるが、iPadは299ドルでは売れない。卓上に置いたり壁にかけたりできる高級感のあるハードウェアを299ドルで売ることを考えれば、「コストを削減しつつ、スマートホームに必要な機能を実現する」必要が出てくる。
AIアシスタントである「Siri AI」が動作し、アップルのスマートホーム・フレームワークである「HomeKit」は動くし、音楽・動画や通話の連携はできるものの、App Storeは使えない。
この辺は他社のスマートディスプレイに近い思想だ。
おそらくは、Siri AIが導入されるタイミングでスマートホーム戦略の本格展開を考えた……ということであり、このタイミングで製品展開をしておきたかったのだろう。
では、スマートホームにSiri AIがなぜ重要なのか?
それは「音声リモコンを超える展開」がようやく実現可能になるからだ。
HomeViewはSiri AIでiPhoneなどと連動
過去のAIアシスタントは、かなりスムーズに音声入力ができたし、音声で反応することもできた。しかし、複雑な命令を与えたり、複数の機器の連動をさせたりするのは難しい部分があった。自分で色々と工夫すればできるのだが、それができる人は多くない。
一方、最新のAIであれば、もっと複雑なことが可能になる。複数機器の連動設定なども、もう少し簡単になるだろう。料理のレシピの表示や、自分がやり取りしたメールやスケジュールとの連携も視野に入ってくる。
こうした要素は、アップルだけの話ではない。Googleは「Gemini」を、Amazonは「Alexa+」をスマートホームに搭載してきている。
実のところ、日本でHomeViewの発売時期が明確でないのは、Siri AIの準備の問題があるという分析もできる。iPhoneやMac、iPadでは10月中に使えるようになるが、HomeViewは同じOSを使っているわけではないので、HomeViewを想定したSiri AIの準備はまた別口……ということなのかもしれない。
現時点では、「今時のAIによるスマートホーム刷新」はそこまでうまくいっていない。Geminiを組み込んだNest Hubも、Alexa+搭載のEchoも、「AI刷新で劇的に売れ行きが上がった」という話はない。AIとスマートホームの機能向上は発展途上であり、まだまだこれから、なのだ。
アップルとしてはキャッチアップするためのギリギリのタイミングであり、好機であったとも言える。
特に日本向けは、まさに「これから発展する」タイミングである。まずはアメリカを中心に足場を固め、そのあとじっくりと日本などへと市場を拡大していくつもりなのかもしれない。
スマートホームの形は国によって異なる
そして、HomeViewに続く3つ目が「Apple Home Collection」だ。これはLG ElectronicsおよびSchneider Electricと共同で提供される製品群であり、アップルが製造・開発したものではない。
アメリカなどで販売が決定している「Apple Home Collection」
スマートホームでは、家庭内に設置する機器が重要になってくる。特にニーズが高いのは、セキュリティカメラやスマートロック、室温のコントロールをする「サーモスタット」だ。これらについて、アップルのスマートホーム機能に適合しており、使いやすいものを選択したのがApple Home Collection、ということになる。
Apple Home Collectionについては、発売情報がはっきりしない。リリースには「12月にApple Storeで販売を開始」とされ、アメリカやカナダでの価格は提示されているものの、日本での価格は示されていない。
正直、日本での展開にはちょっと疑問がある。日本の家庭事情に合っているわけではないからだ。
例えばスマートロック。
Apple Home Collectionに含まれるLG Smart Deadbolt Lockは、カギを取り外して交換するタイプの製品だ。普及しているカギの規格は日米で異なっていてそのまま使うことはできない。そもそも日本のスマートロックでは、「サムターンの後ろにつける」タイプが主流だ。カギごと付け替えるタイプは、新築やリフォームなどの市場が中心である。アメリカ向けの製品がそのまま使えるわけではない。
LG Smart Deadbolt Lockはアメリカ家庭のカギに合わせた製品で、必ずしも日本向けではない
家のどこにつけるのかも国によって異なるので、電源をどこから取るか、という話も異なってくる。
製品を展開するなら各国の事情を分析することが欠かせない。当然、アップルはまず、Apple Home Collectionを「アメリカを中心とした市場」をベースに考えているはずだ。だから、このまま日本で展開するとは考えづらい。日本展開時期などについて、リリースで不明確な部分をアップルに問い合わせたが、記事を公開するタイミングまでに回答はなかった。
同様の課題はAmazonも抱えており、だから、セキュリティカメラの「Ring」では日本専用モデルを作るに至った。その経緯は以下に詳しい。
ただ、別にアップル自身が全てをやる必要はない。日本向けのデバイスを作っている企業はあるし、パートナーシップも組めるだろう。Apple Home Collectionが1つである理由はないし、「日本のApple Storeでは別のものを売っている」でもいいのだ。
アップルはどこから、どのように「日本のスマートホーム」を拡大していくのだろうか。そこで、アメリカ向けのものと日本向けのものの棲み分け・変化はどう生まれて来るのだろうか。
単に「アップルが発表したものがいつ日本で買えるか」ではなく、「アップルはどう日本に合わせて来るのか」を考えてほしい。どこまでできるのか、それとも……。
西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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