[ITmedia エンタープライズ] Oracle、AIで業務アプリを「記録」から「成果」の基盤へ 人の判断はどこに残る
Oracleは10月25日(現地時間)から4日間、米ラスベガスで年次カンファレンス「Oracle AI World 2026」を開催している。26日の1回目の基調講演では、共同CEOのマイク・シシリア(Mike Sicilia)氏と、アプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのクリス・レオーネ(Chris Leone)氏が登壇し、Oracleの業務アプリケーション分野の戦略を説明するとともに新たな発表を行った。
AIエージェントを活用することで、記録を管理する「System of Record」とされてきた業務アプリケーションを、成果を基に定義する「System of Outcomes」に進化させるという。
2025年に共同CEO体制になってから2回目となる基調講演で、シシリア氏は、AIが「ビジネスで何が起きているか」を伝える存在から、「次に何が起こり得るか」を伝える存在へと進化しつつあるとする。既に多くの参加者がAIを稼働させ、リスクの発見、コスト削減、利益率の保護、問題の早期発見に役立てていると話す。
AIで成果を上げるには、AIを信頼できる形で使い、その成果を測定する必要があるとシシリア氏は指摘する。そのためには「データへのアクセス」「文脈の理解」「高性能なインフラ」「業務の現場で(AIが)働く」の4つがそろわなければならない。「ここにOracleの独自の強みがある」とシシリア氏は述べる。同社には企業のデータを管理し、ビジネスを動かし、最も重要なワークロードを支える技術があり、それは「数十年がかりで築いてきたものだ」という。
Oracleは、この4つの要件を「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)で満たす。データへのアクセスは、信頼できる企業データにAIの力を直接もたらす「Oracle AI Database」が担う。文脈の理解を支えるのは「Oracle AI Data Platform」で、ビジネス全体でつながったオントロジーを自律的に作り、AIに文脈を与えセキュリティも担保する。業務の現場でAIを働かせるのは、そのインテリジェンスをビジネスの内側で安全かつ効率的に使うアプリケーション群「Oracle Fusion Cloud Applications」(以下、Fusion Applications)だ。この日の基調講演のテーマは、このFusion Applicationsだ。
ソフトウェアを意識しない世界へ
「これまでのアプリケーションは取引のデジタル化やプロセスの自動化を進め、人の手元に多くの情報を届けてきたが、仕事がソフトウェアを軸に組み立てられがちだった」とシシリア氏。どのアプリケーションを開き、どの手順を踏み、次に誰が何をするのかを、人が把握している必要があったという。
AIはこれを変える。「AIによって、ソフトウェアをほとんど意識しなくて済むようにすべきだ」とシシリア氏は述べる。実現したいことをシステムに伝えれば、システムはビジネスを理解した上で進め方を考え、状況を先読みして仕事を前に進める。人が操作する対象から、人のために動く存在へ、という変化だ。
一方で、AIの役割が広がり、深まるほど、信頼性の重要度も増す。。シシリア氏は、人の判断が必要な場面ではその判断を責任ある人に委ねるのがOracleの考え方だと説明し、「AIのインテリジェンスが高まっても、統制が減るわけではない」と強調した。
System of RecordからSystem of Outcomesへ、3つの発表
続いて登壇したのは、2026年にアプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントに就任したばかりのレオーネ氏だ。AI Worldのステージに立つのは今回が初めてだ。
Fusion Applicationsでは、AIの役割が「アプリケーションに組み込まれたAI」から、個々のタスクを担うエージェント、エージェントのチーム、ワークフローを監督するエージェントへと段階的に広がってきた。2026年に入り、複雑な業務を自律的に進める「Fusion Agentic Applications」を投入、9月にはエージェント型アプリケーションの実行基盤「Oracle Fusion Claw」を発表した。
Oracleが目指すのは、業務アプリケーションを、記録を管理する「System of Record」から、成果を実現する「System of Outcomes」に進化させることだ。人が目標とポリシーを定め、AIが仕事を実行する体制を、業務の運用、ユーザーとの接点、導入の進め方の3つの面から整える。
それに向けて、レオーネ氏は3つの発表を行った。1つ目は、人事、サプライチェーン、顧客体験(CX)の3つの領域でFusion Clawに対応した「Fusion Agentic Applications」。2つ目は、新しいホーム体験を備えた「Fusion Companion」、3つ目は導入を支える「Fusion Setup and Configuration Registry」(FSCR)だ。併せて、パッケージ化されたエージェント型アプリケーションを75種用意していることも紹介した。
レオーネ氏はFusion Clawを「統制されたエージェント型ランタイム」と位置付ける。財務アナリスト、サプライチェーンのプランナー、営業オペレーションや在庫最適化の担当者が担うような専門性が高く複雑な仕事は従来、Fusion Applicationsの外で実行されてきた。Fusion Clawは、長時間にわたるジョブ、複数ステップで計算負荷の高い作業、突合、高度な分析、最適化をこなす。それが可能な理由は、考える部分と実行する部分を分けた設計にある。目的の理解と計画づくりはフロンティアモデルが担い、計画ができた後の照合、シミュレーション、最適化といった部分は、LLMを呼ばずにFusion Clawが決定論的に実行する。LLMを使うのは計画の段階に限るため、大量のデータを扱う処理でも、正確さを保ちながらコストを抑えられるという。実行の結果は毎回蓄積され、成功した方法は次の計画に生かされる。
レオーネ氏によると、75種のエージェント型アプリケーションは、すぐに使える形で提供され、初日から成果を出せるという。そのうち25が、Fusion Clawを使った新しいアプリケーションだ。ノーコードとプロコード(VS CodeとCLI)の両方で、自社のエージェント型アプリケーションを拡張・開発することもできる。
達成したいことを伝える
2つ目の「Fusion Companion」は、Fusion Applicationsの各サービスを横断するインテリジェントな層だ。達成したい仕事を自然言語で伝えれば、Companionが理解して実行する。認可と権限の処理はOracle側が担う。取引、エージェント、エージェント型アプリケーション、長時間の専門的なワークロード(Fusion Claw)のどれで処理するかも、システムが判断する。「ユーザーは(どのように処理されているのかなどを)知る必要も、気にする必要もない」(レオーネ氏)
Companionは複数の入り口で使える。まずはOpenAIの「ChatGPT」向けのプラグインを提供し、ChatGPTの中でFusionの作業ができる。今後、対応するAIクライアントを増やす予定だ。もう一つが、ネイティブの「Agentic Home」だ。AIツールを毎日使うわけではない現場の従業員を想定している。AndroidとiOSに対応したネイティブのモバイル体験や、音声を中心にした操作も備える。レオーネ氏は、「8時間働いた」と伝えてタイムカードを更新する、直近6回の給与明細から残業代が違う理由を調べる、といった使い方を挙げた。
3つ目のFSCRは、Fusionのセットアップと設定に使える、マシン可読なAIスキルのセットだ。ベストプラクティスと製品知識を組み込み、依存関係を管理する。例えば、元に戻せない形でオブジェクトを更新しようとすると、それを通知する。新規の導入だけでなく、モジュールの追加にも使えるという。「これはドキュメントではない。Fusionのオブジェクトを実際にセットアップする運用手順書(ランブック)を作る、実働するスキルだ」とレオーネ氏は強調した。リリースやパッチのたびに、Oracleの開発部門がレジストリを更新する。
FSCRはオープンソースとして公開リポジトリで提供され、誰でも利用できるという。レオーネ氏は「導入は今後、ソフトウェアとAIエージェントが主導する」とし、設定作業を実行するのはエージェント、その判断のよりどころになるのがレジストリ、という役割分担を描いた。
出荷の積載計画を、成果を軸にエージェントが進める
このような技術により、どのようなことが可能になるのか。レオーネ氏は、トラックへの積み荷と出荷を計画するアプリケーション「Shipment Load Planning Workspace」を使ってデモを披露した。
このアプリケーションは、コストと輸送能力の制約の範囲内で、サービスレベルのバランスを取りながら、期日通りに出荷するという成果を軸に作られている。
画面には、トラックの稼働率(61%、目標は70%)に加え、需要が危うい注文への対応や、2つの積載を統合して1万2000ドルを節約する提案など、すぐに取れる対応が並んでいる。ユーザーはこれらを承認していけばよい。より専門的な作業は、Fusion Clawに任せる。例えば「サプライチェーンのプランナーがやるように、この積載計画を最適化して」と指示すると、制約を踏まえた計画を出す。全て実行すれば稼働率は61%から88%に上がり、積載数は16件減、5万8000ドルの節約になるという試算も出す。
ただし、全てを任せるわけではない。提案された計画は154件の積載から成り、そのうち重量と容積のどちらの指標でも目標に届かないのは5件だった。ガバナンスの層に基づき、この5件は人の確認が必要だとして止まり、残りの149件は処理を進める。実行を指示すると、システムは計画時から状況が変わっていないかを確認した上で、117件の注文を対象に実行した。
レオーネ氏は、エージェント型アプリケーションとFusion Clawの違いについて、「Fusion Clawは推奨するだけではなく、実際にそれを実行する」ところにあると強調した。「統制されたフルオートモード」で動き、完了すると「アウトカム・レシート」が出る。誰が作業し、どのアクションを取り、どの標準作業手順に従ったかが記録され、監査できる。「レシート付きのAI」とレオーネ氏は呼んだ。
「開発チームは急ピッチで開発を進めている。これらは現在のリリースで今すぐに利用できる」(レオーネ氏)Fusion Claw対応のアプリケーションとFSCRは既に提供されているが、Fusion CompanionとAgentic Homeの提供開始時期は明らかにしていない。
なお、基調講演の後のプレス向けの説明会で、レオーネ氏はエージェントの暴走懸念について詳しく答えた。
まずエージェントのエラーについては、「ガバナンス層が何であるか、ポリシーが何であるか、権限が何であるかを定義した人物がアカウンタビリティを持つ」と述べた。2026年7月には、OpenAIのAIエージェントがHugging Faceのシステムに侵入した事件が明らかになり、エージェントの暴走への懸念が高まっている。これについてレオーネ氏は「エージェントは単に好き勝手に行動しているのではない」と話す。
「エージェントの周りにハーネスを置き、エージェントの周りにコントロールがある。委譲された権限の範囲内でしか行動できない」と仕組みを説明した。「これは人の問題ではなく、エンジニアリングの問題だ」(レオーネ氏)
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Oracleのマイク・シシリア氏
Oracleのクリス・レオーネ氏